ブルージェイズはあなたや私と同じように、くつろいで座り、次に対戦する権利を懸けて死闘を繰り広げる2チーム、マリナーズとタイガースの戦いを眺めていられる立場にある。
一方、そのマリナーズとタイガースにとっては、まさにシーズンの命運が懸かった一戦となる。
「負ければ終わり」という第5戦ほどスリリングな試合はない。
そして10日(日本時間11日)、シアトルではまさに最高の一戦が待っている。タイガースは1984年以来、ワールドシリーズ制覇から遠ざかっており、マリナーズはいまだワールドシリーズ進出のない唯一の球団だ。両チームにとってこれほどのチャンスは滅多にない。どちらがそのチャンスをつかむのか。考えるだけで緊張する。
今ポストシーズン中、私は翌日の試合を1試合ずつプレビューしていく。
以下は必ず名勝負となる第5戦の3つの注目ポイントだ。
ア・リーグ地区シリーズ第5戦(提供:Booking.com)
タイガース対マリナーズ(2勝2敗)
金曜 午後8時(東部時間)/午後5時(太平洋時間) FOX放送
先発:タリク・スクーバル(DET)対 ジョージ・カービー(SEA)
1. スクーバルに巡ってきた2度目のチャンス
これはタイガースにとってmいや、どのチームにとっても理想的な展開だ。
シーズンの命運を懸けた一戦で、マウンドを託せるのがいま世界最高の投手タリク・スクーバルなのだから。
とはいえ、奇妙なことにデトロイトが「スクーバルを先発させれば自動的に勝利」と書かれた大きなボタンを押せるわけではない。
実際、タイガースはこのシリーズですでにスクーバルが登板した試合で敗れている。
さらに思い出してほしい。ちょうど1年前、同じような状況でスクーバルはガーディアンズのレイン・トーマスに悪夢の満塁弾を浴び、ガーディアンズをア・リーグ優勝決定シリーズへ送り込んだ。
そして今季、マリナーズはスクーバル相手に相性抜群で、対戦3試合すべてに勝っている。
それでも、誤解してはいけない。ここで語っているのはタリク・スクーバルだ。
こんな状況で誰も対戦したくない投手であることに変わりはない。
さらに指摘しておきたいのは、タイガース打線がようやく不振から抜け出しつつある点だ。スペンサー・トーケルソンが好調の波に乗り始め、ハビアー・バエスも苦しい後半戦から立ち直って勝負強い一打を放ち、ライリー・グリーンは第4戦で文字どおり、そして比喩的にも“大きな”本塁打を放った。
これは重要だ。スクーバルが先発するこの試合では、デトロイトは1本か2本の長打があれば勝てる可能性がある。スクーバルはおそらく2年連続でア・リーグのサイ・ヤング賞を受賞するだろうが、それ以上に意味深いのは、キャリア最大の登板でチームの命運を背負う2度目のチャンスが巡ってきたということだ(しかも自身の母校がある街で)。結果を残せるのか。そして、タイガース救援陣の負担をどこまで軽減できるのか。
2. マリナーズは2人のエースを使うのか?
ダン・ウィルソン監督は9日、ついに第5戦の先発を明かした。選択肢は2つ。第1戦に登板したジョージ・カービー(中5日)か、第2戦のルイス・カスティーヨ(中4日)だ。どちらも魅力的なカードだが、ウィルソンは少なくとも試合開始時点ではカービーを起用する決断を下した。
ただし、第4戦の翌日に休養日があったことで救援陣はほぼ全員が休めており、まさに「総力戦」という言葉がふさわしい状況になっている。ウィルソン監督も9日に「当然ながらすべてが懸かっている。だから登板可能な投手は全員、待機させる」と語った。
タイガースの第5戦勝利の鍵は1人のエースに託されている。一方、マリナーズの勝利の望みはチーム全員にかかっている。つまり、カービーに続いてカスティーヨが救援登板する展開も十分あり得るということだ。
もしマリナーズがこの試合で2人の先発投手をつぎ込みながら勝利を収めれば、第1戦から登板したローガン・ギルバートを中4日でア・リーグ優勝決定シリーズ第1戦に送り出せる可能性がある。さらにブライアン・ウーが万全なら、第2戦の先発としてローテーションに戻すこともできるだろう。
だが、今はそんな先の計算をしている余裕はない。マリナーズにとっては、2人のエースを総動員することになっても、この試合を勝つことだけが最優先だ。
3. シアトルは歴史的な悲劇を避けられるか
タイガースに敬意を払いつつも、マリナーズはここ数カ月、特に直近2週間はずっと“何か特別なこと”を成し遂げようとしているチームのように感じられる。イチローのスピーチがあり、カル・ローリーはレギュラーシーズンで60本塁打に到達。その後、ポストシーズン初本塁打を放った打球は「Dump 61 here(ここに61本目を)」と書かれたシャツを着たマリナーズファンのもとに飛び込んだ。そしてシアトルでは、信じられないほどの大歓声がスタンドを包んでいる。
エメラルドシティ(シアトルの愛称)でこれほど質の高い、これほど熱い野球が見られるのは本当に久しぶりだ。ファンはこのチームを、まるで一生待ち続けてきた存在のように受け入れている。今のマリナーズには、純粋な喜びがある。
(筆者自身、今季のマリナーズを「野球界で最も魅力的な物語」として何度も書いてきたほどだ)
すべてがマリナーズに向かって整ってきた。少なくとも、ここまでは。
だからこそ、今この瞬間が恐ろしい。マリナーズはあと1敗で、すべてが消えてしまうがけっぷちに立たされている。そしてその相手が、よりによってスクーバルだ。本当にこんな終わり方になるのか? そうなるかもしれない。T-モバイルパークの観客席は初球から興奮と緊張と不安に満ち、誰ひとり座っていられないだろう。だが、これほど熱狂的なファンが放つ歓声よりも圧倒的なのは、敗北の静寂だ。
すべては第5戦に懸かっている。シアトルの空気は、良くも悪くも、限界を超えるほど高まるだろう。
