サイ・ヤング賞スクーバル、更なる進化の訳

データで徹底分析

May 24th, 2025

昨季ア・リーグでサイ・ヤング賞を受賞し、「メジャー最高の投手」とまで称されたタリク・スクーバルだが、それでも本人にとっては満足ではなかったようだ。

防御率だけを見れば、昨年より約0.5ポイント高いが、実際の投球内容は昨年以上。空振り率、奪三振率、与四球率といったあらゆる指標が前年を上回っており、奪三振/与四球(K/BB)比率では歴代記録にも迫る勢いである。

日曜のガーディアンズ戦を前に、スクーバルは今季ここまで59回2/3を投げて79三振、7四球。K/BB比は11.29とこれでも歴代トップクラスの数字だが、直近8先発に限れば、69三振に対してわずか3四球。つまり、四球1つに対して23奪三振という驚異的な成績を残している。

実際、MLBの歴史において、シーズンK/BB比が10.0を超えたのはわずか4人。その多くは奪三振というより、四球を極限まで減らすことで達成された。たとえば2014年のフィル・ヒューズは、K/BB比11.63(史上最高)を記録したが、9回あたりの奪三振数はわずか8.0だった。

しかし、スクーバルは四球を減らしつつ、三振を奪う力も維持。今季の9回あたりの奪三振数は11.9と別次元の内容を見せている。

そんな絶好調のスクーバルがどのようにして、「サイ・ヤング賞以上」の投球へと進化を遂げているのか。データを元に分析していこう。

※全てのデータ・成績は金曜日時点のものとなっている。

「浮き上がる」ストレート

元々球種の豊富さとキレで知られていたスクーバルだが、2025年はさらに上のレベルに達している。

ピッチャーの球種をリリースポイント、球速、変化量、回転数などで評価する指標「Stuff+」では、全投手中トップの119(平均100)を記録。昨年の112からさらに伸びており、2位と大きな差をつけている。

特にストレートは球速アップに加えて、「浮き上がる」軌道を描くように。これはスピンによって垂直方向への落下が抑えられ、打者の目線では浮き上がるように見える変化である。

※以下画像は2024年と2025年とスクーバルのストレートの比較。球速の向上、落下率の減少、上昇率の向上などが見て取れる。

この改良により、空振り率は27.7%から32.9%へと大幅アップを遂げ、MLBトップとなっている。

2025年 フォーシーム空振り率(最低150スイング)

  1. タリク・スクーバル:32.9%
  2. ハンター・ブラウン:32.3%
  3. ザック・ウィーラー:31.5%
  4. ブライアン・ウー:31.4%
  5. ギャレット・クロシェット:30.8%

しかしスクーバルの決め球はこのストレートではなく、チェンジアップ。実際、最も多く投げているのはこの球種だ。

※縦軸がその球種を投げた割合で横軸はシーズン。緑色のチェンジアップが赤線のフォーシーマー(ストレート)を2025年に追い越し、最も投げられていることがわかる。

2025年、スクーバルの全5球種はすべてStuff+で112以上を記録しているが、チェンジアップはその中でも126という異次元の数値。

※以下画像はカウントごとに投げられた球種。ほとんどで緑のチェンジアップが最も投げられていることがわかる。

左打者にも右打者にも、どのカウントでも自在に投げ分けるこの球種は、その出番を増しさらに威力を増しており、ストレートとの相性の良さを見事に発揮している。

2025年 単一球種の空振り率(最低150スイング)

1位:スクーバルのチェンジアップ:47.9%
2位:マックス・メイヤーのスライダー:44.4%
3位:クリス・セールのスライダー:42.2%

2025年 単一球種の三振率(最低75打席)

1位:カルロス・ロドンのスライダー:47.5%
2位:スクーバルのチェンジアップ:45.5%
3位:メイヤーのスライダー:45.0%

制球力の向上

他にも、マウンドでの支配力を支える要因の一つがストライクゾーンギリギリでの勝負強さだ。

今年はツーストライク・スリーボール時に、ストライクゾーン境界付近に投げる割合が格段に向上。打者は難しいスイング判断を強いられ、見逃し三振となるケースが増えている。ただ「ストライクを取りに行く」球を投げる必要がないことも大きな利点の一つだ。

上記画像は三振を奪った球のコースを表している。これから見て取れるように、ゾーンの端を攻めることができていることが今年の好調を支える要因になっていると言える。

ストライクゾーン勝負での効率も向上

加えて、今年のスクーバルはゾーン内で勝負しても打たれにくく、無駄球も少ない。

ゾーン内で勝負してテンポよく打者を抑えるそのスタイルは球威と制球力の理想的な融合を実現しているといえる。

※以下の画像は上から

  • 初球のストライク率
  • ストライクゾーンに入った割合
  • ゾーン内の球で空振りを取った割合
  • 投手が有利なカウントで投げた割合
  • 2ストライクから三振を奪った割合

を示している。全てでトップ3にランクインし、また昨年から全ての数値が向上している。

スクーバルは今、歴代記録級のK/BB比に迫るだけでなく、史上でも限られた連続サイ・ヤング賞の可能性すら視野に入れている。

2024年はただの「第二形態」。これからさらなる先のステージを見せてくれるだろう。