16年前、デーブ・ドンブロウスキーはウインターミーティングの壇上にいた。カーティス・グランダーソンのトレードについて説明しなければならなかった。タイガースの球団社長兼GMだったドンブロウスキーは、オールスター中堅手であり、球団がドラフトから育てたデトロイトでも屈指の人気選手グランダーソンを前年のワールドシリーズ王者、ヤンキースに放出した。この三角トレードでは、エドウィン・ジャクソンもアリゾナへ移籍した。
その見返りとしてタイガースが得たのは、若手4選手。4人合計でメジャー通算151試合の出場だった。
これはグランダーソンが2009年にタイガースで出場した試合数よりも9試合少なかった。
このトレードはデトロイトで極めて不評だった。ドンブロウスキーはその反応を予期しており、理解もして受け止めた。2009年、ア・リーグ中地区のタイブレークで敗れるなど3年連続でポストシーズンを逃したタイガースには、彼が言うところの「調整」という名の給与再配分が必要だった。2年後にFAを控えていたジャスティン・バーランダーの契約延長も見据えていたためだ。グランダーソンはわずか1年半前に延長契約を結んだばかりだった。タイガースが地位を確立したスター選手をトレードに出したのは、ドンブロウスキーがデトロイトで最初のシーズンを迎えた2002年以来のことだった。
メディアの前に立ったドンブロウスキーは、かつての上司であり元ホワイトソックスGMのローランド・ヘモンドから学んだ教訓を思い出していた。ヘモンドはかつて、サイ・ヤング賞投手ラマー・ホイトをまだ無名だった遊撃手の有望株オジー・ギーエンとのトレードで放出した人物だった。
「知られている選手を未知の存在と交換するときは、常に覚悟が必要だ」と当時ドンブロウスキーは記者団に語った。
「その決断には批判がつきものだからこそ、その結果を受け止める覚悟を持たなければならない。簡単なことではないが、これもビジネスの一部だということは理解している。この挑戦に胸が高鳴っているし、彼らは良い選手たちだと思っている。そしてこのトレードによって、われわれの球団は将来に向けて非常に良いメンバー編成になったと確信している」
4年後、マックス・シャーザーが初のサイ・ヤング賞を手にしたとき、そのトレードはまったく違った意味を持っていた。あの取引は球団の転換点となり、タイガースはア・リーグ中地区4連覇、2度のリーグ優勝決定シリーズ進出、そしてワールドシリーズ進出へとつながる黄金期を築いた。グランダーソンのトレードでダイヤモンドバックスからシャーザーを獲得した当時、タイガースは右腕を将来のオールスター候補とは見ていたが、将来の殿堂入り投手になるとは想像もしていなかった。ドンブロウスキーの判断が正しかったことが証明された。
現在の球団社長スコット・ハリスが、来季契約最終年を迎えるタリク・スクーバルを残すかトレードに出すかという重要な決断に直面している今、そのときの判断が思い出される。しかし同時に、その後に起きた出来事も重なる。
シャーザーがサイ・ヤング賞を獲得したのは、球団保有権が残り2シーズンとなった2013年だった。タイガースは前年オフにバーランダーと再延長契約を結び、ミゲル・カブレラも新たな延長が近づいていたため、シャーザーとの再契約に2億ドル(約304億円)を超える金額を投じるつもりはなかった。
それでもタイガースは、もう一度ワールドシリーズを狙っていたため、契約交渉の過程が公になっていたにもかかわらず、シャーザーのトレードを検討しなかった。デトロイトはシャーザーの退団を見据え、残り1年半の契約を残すデービッド・プライスをトレードで獲得してローテーションを補強。スター選手が並ぶ先発陣を形成し、地区4連覇を達成した。だが、ポストシーズンではオリオールズに地区シリーズで完敗を喫した。
その冬、シャーザーはナショナルズと7年2億1000万ドル(約319億2000万円)で契約した。翌夏、タイガースは補償ドラフト指名権で大学の強打外野手クリスティン・スチュワートを指名。しかし、スチュワートはデトロイトで3シーズンプレーしたが、本塁打は15本にとどまった。そのドラフトから7週間後、順位争いから離れていたタイガースはデービッド・プライスをブルージェイズへ放出し、マシュー・ボイドやダニエル・ノリスを含む有望株パッケージを獲得。数日後、タイガースはドンブロウスキーを解任した。ドンブロウスキーはレッドソックスに移って翌オフにFAのプライスと7年2億1700万ドル(約329億8400万円)で契約を結んだ。
グランダーソンの放出も、シャーザーを出さなかった判断も、人気の面では対照的だったが、いずれも当時の状況に照らせば適切だったと言える。どちらのケースも、いまスコット・ハリスが直面している選択肢を示している。すなわち、スクーバルに関するトレード打診に耳を傾け見返りを吟味するのか、あるいはスーパーエースを軸にもう一度ポストシーズンを目指して戦力を整えるのか。どちらの道にも、世論を超えたリスクとリターンがある。
