メジャーリーグには特定の部門のリーグリーダーをなぜか輩出することができないクラブが多々存在する。例えば、カブスの選手が最後に盗塁王に輝いたのは86年前の1939年まで遡る。
だからこそ、盗塁ランキングにカブスの選手が、安打数ランキングにガーディアンズの選手が名を連ねていると、何十年ぶりの記録更新の期待感が高まるのだ。
もちろん、これからの数ヶ月で状況が変わるかもしれないが、今の時点でそんなチームの「長年の空白」を埋める可能性を秘めた9人の選手に注目してみよう。
※データはすべて木曜の試合終了時点のものとなっています
1. カル・ローリー(マリナーズ) 12本塁打(ア・リーグ同率1位)
マリナーズ最後の本塁打王:ケン・グリフィーJr.(1999年)
26年という期間は特筆すべきほどの長さではないかもしれない。ただ、2001年にアレックス・ロドリゲスがシアトルを去った後、彼がその後7年間で5回もア・リーグの本塁打王に輝いたことを考えると、マリナーズファンのもどかしさにも頷ける。
そんな中でファンに一縷の望みを見せているローリーだが、彼が本塁打王となるには不利な要素が多い。広くて本塁打が出にくい本拠地、キャッチャーという消耗の激しいポジション、そして何より、アーロン・ジャッジという絶対的な存在がいることは高いハードルとなる。
それでもローリーには期待がかかる。仮に本塁打王に届かなくても、もし今季40本塁打を記録すれば、ジョニー・ベンチ、ロイ・キャンパネラ、マイク・ピアッツァらの名捕手たちに肩を並べることになる。自己最多は昨季の34本。十分に手の届く記録であるはずだ。
2. スティーブン・クワン(ガーディアンズ) 49安打(ア・リーグ3位タイ)
ガーディアンズ最後の安打王:ケニー・ロフトン(1994年)
ガーディアンズが通常のレギュラーシーズンで安打王を輩出したのは1949年のデイル・ミッチェルが最後。短縮シーズンとなった1994年のケニー・ロフトンを除けば、その空白期間は80年近くにも及んでいたことになる。
だが、今季のクワンはそれを打ち破る可能性を秘めている。今のペースを維持すればシーズン終了時には215安打に到達する見込み。この記録であれば、リーグの安打王争いに名を連ねるのはもちろん、球団記録でも1936年のアール・アヴェリル(232安打)やハル・トロスキー(216安打)以来の歴史的数字となる。
さらにクワンは、1954年のボビー・アビラ以来となる球団史上初の首位打者の座も狙える位置にいる。これまでにも、夏場までは打率.400に迫るペースを見せたり、ゴールドグラブ賞を受賞したり、走塁やポストシーズンでも活躍を見せるなど、その実力は折り紙付き。二冠達成なるか、要注目だ。
3. ウィルマー・フローレス(ジャイアンツ) 33打点(ナ・リーグ3位)
ジャイアンツ最後の打点王:バリー・ボンズ(1993年)
1988年から1993年にかけて、ジャイアンツではウィル・クラーク、ケビン・ミッチェル、マット・ウィリアムズ、そしてバリー・ボンズの4選手がそれぞれ打点王に輝いた。だがその後は、キャリア通算本塁打記録を打ち立てたボンズが在籍していた時期を含め、打点王は一人も出ていない。
その流れを変える候補がウィルマー・フローレスだというのは、正直なところ予想外だ。過去のシーズン最多打点が71だった中で、今季は得点圏打率.429、長打率.686といった素晴らしい数字を残しており、この勢いを維持できれば、打点王も夢ではない。
また、ジャイアンツには典型的なスラッガーがいないことでフローレスまでチャンスが回ってくる場面が多く、今季は33打点のうちの19を7番打者として記録している。今後もこのチーム状況がハマれば、打点を積み上げていくことができるだろう。
4. ラファエル・ディバース(レッドソックス) 39試合出場(ア・リーグ1位タイ)
レッドソックス最後のリーグ最多出場選手:ドワイト・エバンス(1984年)
1943年から1985年の間、レッドソックスの選手たちは非常にタフだった。この期間にボストンの選手がメジャー全体で最多試合出場を果たすか、162試合すべてに出場したのは12回にも上る。
だが1985年にビル・バックナーが162試合に出場し、ホワイトソックスのグレッグ・ウォーカー(163試合)に次ぐ2位となって以来、レッドソックスの選手がトップに立つことはなかった。なお、最も空白期間が長いのはエンゼルス(1979年のドン・ベイラー以来)だが、今季はフル出場している選手は既にいない。
その中で、レッドソックスの指名打者ラファエル・ディバースは(得意の打撃でチームに貢献することが前提ではあるが)ただただ試合に出続けることで、実に41年ぶりとなるチーム記録を更新することができる。
5. ヘスス・ルサルド(フィリーズ) 防御率2.11(ナ・リーグ4位)
フィリーズ最後の防御率タイトル獲得者:スティーブ・カールトン(1972年)
まずは、流石のルサルドでも到達できそうにない、前回受賞者である1972年のカールトンの成績を見てみよう:27勝、30完投、346回1/3、310奪三振。いくらなんでもこれは厳しい。
しかし、両者には共通点がある。カールトンがナ・リーグの別チーム(カージナルス)からのトレードでフィリーズに加入し、27歳でブレイクしたように、ルサルドも今季マーリンズからトレードで加入し、現在27歳。同じタイミングでスター街道を駆け上がろうとしている。
20世紀以降、ナ・リーグで防御率1位となったフィリーズの投手はカールトンとグローバー・アレクサンダーしかいない。数々の名投手たちでさえも達成できなかったタイトルを手にすれば、それは非常に象徴的な出来事となるだろう。
6. イ・ジョンフ(ジャイアンツ) 二塁打11本(ナ・リーグ4位タイ)
ジャイアンツ最後の二塁打王:オーランド・セペダ(1958年)
セペダがナ・リーグ最多の38本の二塁打を記録したのは1958年。それ以降、2020年の短縮シーズンを除いて、ナ・リーグで40本未満の二塁打でタイトルが獲得されたのは6回のみで、最後は1984年にティム・レインズとジョニー・レイが38本で並んだ時だった。
実際、ジャイアンツの選手は1958年以降16回も38本以上の二塁打を放っているが、一度もタイトルには届いていない。
そんな中、注目されるのがブレイクを果たしているイ・ジョンフだ。
「風の子」と呼ばれた韓国プロ野球のスピードスター、イ・ジョンボムを父に持つ「風の孫」は、韓国プロ野球で二塁打王に4度輝き、2位も3度と実績十分。今季もすでに11本の二塁打を放っており、タイトルを狙える位置にいる。
しかし唯一の「足枷」となり得るのが、三塁打の多さ。KBO通算で43本、今季もすでに2本記録しており、三塁打が多いことが二塁打の数を抑える可能性もある。
7. ピート・クロウ=アームストロング(カブス) 盗塁12(ナ・リーグ3位)
カブス最後の盗塁王:スタン・ハック(1939年)
盗塁王に輝いたとはいえ、スタン・ハックは決して盗塁が得意だったとは言いがたい。1936年から1940年の間に87の盗塁を記録した一方、失敗も92回。1930年代後半はそもそも盗塁が流行っていた時代ではなかったが、それにしてもこの成功率は悪い意味で目立っていた。
そんなハックのプレースタイルはパワーとスピードが求められる現代野球にはあまり合わないかもしれないが、クロウ=アームストロングは対照的にそれを象徴するかのような選手だ。
センターでの守備はすでに鉄壁で、打撃面でもパワーが急成長。加えて、その走塁センスの高さは選手としての総合力を示しており、エリー・デラクルーズやオニール・クルーズといった、スピードとパワーを兼ね備えた逸材たちと並びナ・リーグ上位を争っている。
このまま「走り」続ければ、カブスから86年ぶりとなる盗塁王が誕生するかもしれない。
8. コール・ラガンズ(ロイヤルズ) 奪三振57(ア・リーグ1位タイ)
ロイヤルズ最後の奪三振王:該当者なし
ラガンズは昨シーズン、ロイヤルズ史上初の奪三振王に限りなく近づいていた。9イニングあたりの奪三振数はア・リーグトップの10.8を記録したものの、総奪三振数は223で、サイ・ヤング賞を受賞したタリク・スクーバル(228)にわずかに届かなかった。
同じようにロイヤルズにも好投手がいなかったわけではない。ただ、他球団に名投手が多く存在していたことで、そもそもロイヤルズの投手が「奪三振王」の座を狙える機会自体が非常に限られていたのだ。
今季もラガンズは同じ左腕のカルロス・ロドン(57)やギャレット・クロシェット(56)と激しい首位争いを繰り広げているが、彼らにはない強みがある。それが、180イニングを超える登板回数だ。(昨季186回1/3)持ち前のスタミナと安定感を活かすことができれば、球団史上初の奪三振王に輝くことができるかもしれない。
9. ピート・アロンソ(メッツ) 塁打数87(ナ・リーグ3位)
メッツ最後の塁打王:該当者なし
創設から63年の歴史を持つメッツだが、これまでナ・リーグで塁打数トップに立った選手は一人もいない。しかし、今季のアロンソはそれに終止符を打つのではないかと期待させるほどの活躍を見せている。
実際、2019年に53本塁打でシーズン塁打数348という球団記録を打ち立てたように実績は十分。当時はリーグトップのコディ・ベリンジャーに3塁打差で及ばなかったが、それ以来、常にトップ争いに顔を出す存在となっている。
今季はコービン・キャロルや大谷翔平と競り合う形でシーズンが進んでいる。異なるタイプの強打者たちとの争いの中で、アロンソが「50本塁打者」としての爆発力をさらに引き出すことができれば、メッツ初の塁打王も見えてくる。