メジャーリーグでよく使われる言葉のひとつに「クラブハウスカルチャー」がある。
チームのクラブハウスで、日々どのような雰囲気が作られているか、どんな価値観が共有されているかを指す言葉だ。練習や試合準備への向き合い方、プレーに臨む姿勢、ミスや失敗への向き合い方、そしてそれをチームとしてどう受け止めるか。そうした日々の積み重ねが、チームの「空気」をつくる。強いチームほど、このクラブハウスカルチャーが安定している。勝敗を左右するのはグラウンド上のプレーだけではなく、日常の環境そのものでもあるからだ。
数年前まで、ホワイトソックスのクラブハウスの空気は重く、チーム全体に活気が欠けていた。外から見てもまとまりに欠け、雰囲気は良いとは言いづらい状態だった。しかし今季のホワイトソックスは、その印象を大きく変えている。選手たちの表情は明るく、ベンチにも前向きなエネルギーが流れている。
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2023年は101敗、2024年は121敗、昨季101敗と歴史的な低迷を経験したチームは、今季は勝率5割を超える戦いを続けている。若手の成長や投打のかみ合いが要因として挙げられるが、現場で最も強調されるのがクラブハウスの変化だ。その中心にいるのが、ベテラン外野手ランドール・グリチックだ。
ウィル・ベナブル監督はチームの空気について問われると、「自然に生まれたもの」と表現し、次のように続けた。
「昨季後半から若手が昇格し始めた段階で、すでにチームの土台はでき始めていた。オフシーズンには共にトレーニングを行い、生活を共にする選手もいた。そこに経験豊富なベテランが加わったことで、クラブハウスはさらに一体感を増した」
そのうえで、ベナブル監督はベテラン外野手ランドール・グリチックの名前を挙げる。
「グリチックのようなベテランも積極的に声を出している。グラウンド上と同じように、クラブハウスでも全員が貢献している」
さらにグリチックをこう評価する。
「本当に素晴らしい選手だ。打席で結果を出すだけではない。どんな役割も受け入れ、出場機会が限られていても不満を口にしない。自分の仕事に集中している」
34歳のグリチックは、5月4日にヤンキースからホワイトソックスへ移籍した。
当初フロントが想定していた役割については、「左投手への対応や、必要な場面での起用が中心だと思っていた」と話しており、リーダーとしての役割については、「正直そこまでは明確ではなかった」とも振り返る。
しかし実際にチームに加わると、状況は少し違っていた。クラブハウスを見渡すと、「サービスタイム(メジャーでの実働年数)が一番長いのは自分だった」と気づいたという。
「メジャーデビューの選手が毎週のようにいるし、2、3年以下の選手も多い。俺が一番サービスタイムが長いなと思ったんだ」と笑う。
その中で、自然とベテランとしての役割も意識するようになった。
「みんな、とても若いから、自然と経験を伝える役割も求められていると感じた。若い選手たちは自分でできる力はあるけれど、時々ちょっとした質問をしてくる。その手助けができるのは楽しいし、自分の役割も広がっている」
グリチック自身も、そうした環境を前向きに受け止めている。
「若いポジションプレーヤーに日々の練習や試合の中で起きること、グラウンド内外の対応など、そういった部分で支えになれればいいと思っている」
試合中はもちろん、日々の練習やクラブハウスでの振る舞いなど、若手選手にさりげなく気を配る。
「打撃やアプローチ、試合中の状況判断など、ちょっとしたことでも経験を伝えるようにしている。長くこのゲームをやってきて多くのことを見てきたし、若い頃は自分も多くのベテランに助けられた。その恩返しをしたいという気持ちだ。ただ同時に、(自分自身は)必要な場面ではしっかり結果も出さないといけない立場でもある」
ベナブル監督は、グリチックについてさらにこう評価する。
「経験豊富な選手として若手を支えながら、彼らがリーダーとして成長する余地も与えてくれている」
時にはアドバイスを送り、時にはミゲル・バルガスのようにリーダーとして成長しつつある若手や中堅選手の背中を控えめに押し、温かく見守る。そうした役割も担っている。
グリチックは若い選手たちに優しい眼差しを向けながら、「本当に若いチームだと思う。そして全員が一生懸命プレーしていて、互いに支え合っている。いい野球ができていると思うし、シーズンを通して(世間を)驚かすチームになれる可能性はあると思う」と話す。
リーダーシップにはさまざまなスタイルがある。声で引っ張る選手もいれば、背中で示す選手もいる。今季のホワイトソックスにおいて、グリチックは後者だ。それでも日々の姿勢でクラブハウスに規律と落ち着きをもたらし、若手主体のチームに安定感を与えている。
ホワイトソックスの躍進はグラウンド上の数字だけでなく、クラブハウスという見えない場所から始まっている。