【解説】なぜ大谷もジャッジもホームランダービーを辞退するのか

大谷は2021年に参加

July 11th, 2025

「現行のルールではなかなか厳しいので、今のところ、チャンスはないかなと思っています」

ドジャースの大谷翔平(30、31本=ナ・リーグ1位)は6月28日、3度目の先発登板後の取材でホームランダービーを辞退する意向を明かした。

昨季、ア・リーグのMVPを獲得したヤンキースのアーロン・ジャッジ(33、34本=ア・リーグ2位)もかねてより、ニューヨーク以外の開催地では不参加の姿勢だ。

(本塁打数は、いずれも7月10日の試合終了時点)

今季はカル・ローリー(マリナーズ、36本=ア・リーグ1位)やジェームズ・ウッド(ナショナルズ、24本=ナ・リーグ6位)ら、新たなホームランアーチストが、ダービー参加を表明している。しかし、今やMLB全体の“顔”であり、ここ数年のシーズンで数多くのホームランを放っている大谷やジャッジの参加は多くのファンが「みたい」と願うものではないだろうか。もちろん、選手の体調やケガを心配し「出なくていいよ」と思っているファンもいるはず。

では、なぜ出場に前向きになれない選手が存在するのか。

大谷のいう「現行のルール」にある問題点とは、何を意味するのか。

(ちなみに大谷の参加は2021年)

それは、制限時間内でフルスイングを続けなければいけないという点だ。

2023年までは制限時間内に一定の飛距離を放てば、30秒や1分のボーナスタイムが得られた。本数を稼ぐために、そして勝ち上がるためにボーナスタイムの獲得は重要。つまり、フルスイングでボーナスタイムを得るための特大ホームランを狙う。

結果的に遠くに飛ばさなければ、勝ち上がれない、というルールだった。

そしてそれは選手の体力的な負担を大きくした。

MLB機構もエンターテイメント性を高め、実際の会場やテレビや配信で視聴するファンに向け、より楽しんでもらうために工夫を凝らしている。制限時間があり、テンポよくスイングする「見せ方」はファンや視聴者が目を逸らさず、ハラハラ、ドキドキを演出できる。だが、くしくもそれが選手の負担を増し、参加をためらう理由にもなっている。昨季からMLB機構は負担減につながるルール改正した。

全球フルスイングする過度な負担を避ける狙いがあった。

今季は3ラウンド制で行われ、第1ラウンドは全選手が制限時間3分、もしくは球数制限40球に到達するまで打ち続ける。

その後、3アウト制のボーナスタイムが与えられ、このボーナスタイム中に飛距離425フィート(約129.5メートル)の本塁打を1本でも打てば、4アウト目が追加される。(その他、今季のルール詳細はこちらを参照

つまり、2年前までのルールと違い、最初の3分間で放ったホームランの飛距離は、ボーナスタイムの獲得に関係ない

上記で指摘した「制限時間内でフルスイングを続けなければいけない」という肉体的に大きな負荷を軽減することにつながるかもしれない。

ちなみに普段、チーム試合前練習で行うフリー打撃では、3〜4人で1グループを作り、1人1分ほど打ち続ける(6〜8スイング)。それを交代で4〜5度、繰り返すのがレギュラーシーズン中のルーティーンだ。つまり、日常的に2〜3分間スイングを断続的に続ける、という練習は行なっていない。

このルール改正を受け、来季は大谷やジャッジらホームランダービー参加の候補選手たちが、前向きに検討するのか、分からない。ただ、オールスターゲームの「前夜祭」として開催されるホームランダービーは、メジャーのパワーや迫力を感じられる魅力的なイベントだ。

そして、負担減につながるルール改正がされても打席に立てば、大きなホームランを打ちたい、ファンに喜んでほしい、と思いフルスイングを続けてしまうのがスラッガーの本能だろう。

MLB機構と選手、そしてファンが協力し合い、楽しめるイベントに進化していくことを期待したい。