ドジャースは九回、2点のリードを保っていた。1死二、三塁で、打席にはワールドシリーズ制覇を決める決勝点の走者となるヒメネスが入った。ヒメネスはグラスナウの直球を逆方向に飛ばすと、二塁走者バージャーはハーフウェイで待機し、もしボールが落ちれば同点打を狙えると踏んだ。
「落ちるな」
ドジャースのデーブ・ロバーツ監督がそのとき考えていたのは、それだけだったと記憶している。
「落ちるな」
ボールは落ちなかった。そしてバージャーは二塁に戻れなかった。そしてドジャースはワールドシリーズ第6戦に3-1で勝利し、フォールクラシックは第7戦へと突入する。
キケ・ヘルナンデスはポストシーズンで最高の瞬間を演出することで名声を博してきた。そして第6戦でも最も記憶に残る瞬間の一つを演じた。
ヘルナンデスはヒメネスのライナーをジャンプして捕球し、そのままランニングスローで二塁へ転送。ショートバウンドになった送球を二塁手ミゲル・ロハスが巧みに捕球した。
そしてバージャーはアウトになり、ドジャースが勝利。送球の勢いのまま内野に到着したヘルナンデスは、遊撃手のムーキー・ベッツに飛びつかれた。
「かなり壮大な結末だ」とロハスは言った。
冗談ではなく、これはまさにヘルナンデスの活躍による史上最高のエンディングだった。まずは完ぺきなポジショニングから見ていこう。
- ヘルナンデスはヒメネスから272フィート(83メートル)の距離に守備位置をとったが、これは今季左打者に対してレフトが守る平均よりもなんと26フィート(8メートル)も浅い。
- これはある程度、パワーが脅威ではないヒメネスのせいだ。ヒメネスに対するレフトの守備位置は平均で285フィート(87メートル)に過ぎない(158人中151位の浅さ)。
- ヘルナンデスは浅く守ることを好む。平均の左打者に対する守備位置は285フィート(119人中107位の浅さ)。
- それでもヘルナンデスは平均よりさらに浅く守った。ヘルナンデスはワールドシリーズでヒメネスに対して平均273フィート(83メートル)の位置で守っている。ドジャースの他のレフトに比べると、24フィート(7メートル)も浅い。
「グラスナウの持ち球からすると、左側に打球が飛んでくると予想していた。二塁に同点の走者がいたから、浅めに守っていた。ショートを抜けるヒットを打たれたら、二塁の同点の走者を三塁にとどめられるくらいに浅く守っていたかった」とヘルナンデスは振り返る。
ヘルナンデスのポジショニングは完ぺきだった。プレーそのものも完ぺきだった。ヘルナンデスは3.4秒で52フィート(約16メートル)を走破する必要があった。バットを振った瞬間の読みは絶妙だった。ヘルナンデスは想像を絶する最高のスタートを切り、バージャーが予想だにしなかったキャッチを決めた。
「彼(ヘルナンデス)がボールにたどり着いたことには本当に驚いた。最初はショートの頭上を越えるだろうと思った。まさかあんなに飛ぶとは思わなかった。読みが悪かったんだ。明らかにベースから離れすぎていた。攻めすぎていた」と、バージャーは語る。
スタットキャストによれば、ヘルナンデスの「ジャンプ」はリーグ平均より7.3フィート(2.2メートル)優れていた(「ジャンプ」とは、ボールが打たれてから最初の3フィート以内に正しい方向に足を踏み出した距離と定義)。もしヘルナンデスの「ジャンプ」がこれより劣っていても捕球自体は成功していたかもしれないが、それではバージャーを間一髪でダブルプレーにすることはできなかっただろう。
そして、このプレーの最後の場面に移ろう。これは決して見逃せない部分だ。ヘルナンデスはできるだけ早くボールを持ち替えようとした。送球は正確だったが、途中でバウンドしてしまった。
「全速力で走っていたから、あまり強く投げたくなかった。おそらく頭上に投げてしまうと思ったから」とヘルナンデスは振り返る。
しかし、送球を受けたロハスはこう言った。
「ヘルナンデスがボールを二塁に投げたとき、私は『このボールは絶対に逸らさない』と言ったんだ」
実際、ロハスの巧みな捕球が第6戦の勝利が決まった。左足でベースを踏み、グラブを出すのを我慢したことで、ボールの跳ね方を読む時間を稼いだ。バージャーの左手がベースに触れるほんの一瞬前に、ロハスはグラブの中でボールを握りしめた。
ロジャースセンターが静まり返る中、ドジャースの選手たちがダグアウトから続々と出てきた。審判団がリプレイ確認中を告げると、球場のファンに一瞬の希望が蘇った。間もなく、バックスクリーンに決定的な映像が映し出された。球場から観客が減り始めると、ドジャースの選手たちは次々と抱擁と握手を交わした。
「素晴らしいワールドシリーズだ。第7戦までもつれ込むのは当然だ」とヘルナンデスは言う。それは主にヘルナンデス自身のおかげだ。
「すごい選手だ。すごいプレーだった」とロバーツ監督。勝負はあすの第7戦に持ち込まれた。
