【ニューヨーク】日曜日、ヤンキースタジアムのクラブハウスでアンソニー・ボルピーは2本のバットを検査のために差し出した。左手には昨季使っていたもの、右手には土曜日の午後に歴史的な9本塁打を放ったことで話題となった「トルピード(魚雷型)」モデルだった。
この2つのバットの違いは顕著で、従来の物とは異なり、「トルピード」のバレルは打者の手に近い位置にある。
大リーグ機構(MLB)は日曜日、このバットがメジャーリーグの規則やバット・サプライヤーの規定に違反していないことを確認した。ルール3.02では、バットの直径は2.61インチ、長さは42インチを超えてはならないと定められている。
「この(バットの)コンセプトはとても理に適っている。ボールを打つバレルが大きければ大きいほど自分には理に適っているんだ」とボルピーは話す。
ヤンキースは開幕3試合で15本塁打を量産した。土曜日は9本塁打、12対3で勝った試合でも4本塁打でAL/NL記録に並ぶ13本塁打を打っている。
土曜日のYESネットワークの放送で、マイケル・ケイアナウンサーがこのバットについて言及し、注目を集めた。ケイアナウンサーによるとヤンキースの分析部門がボルピーを調査したところ、ボルピーはバレルではなくバットのラベルにボールを当てることが多いという結果が出た。
これに対処するため、ボルピーはビクタス社に打球が当たりやすい部分に木材を多く使用し、先端の上部を細くするようなバットを注文した。
ジャズ・チザムJr.、コディ・ベリンジャー、ポール・ゴールドシュミット、オースティン・ウェルズらは、ヤンキースが春季キャンプや昨季も使用した「トルピード」バットを振っている。
「トルピード」バットの技術は元ヤンキースのアナリストでこのオフにマーリンズのフィールド・コーディネーターに採用されたアーロン・リーンハート氏によって開発された。
「レニーはこの開発に注力したと思う」とボルピーは話す。
ジャンカルロ・スタントンは肘の故障の原因を2024年シーズン中の「バットの調整」としているが、それ以上の具体的な説明は避けている。ヤンキースのジェイソン・ドミンゲス外野手はスタントンもこのバットを使用する選手の一人だと語った。
いずれにしろ、「トルピード」バットの話題はリーグを駆け巡っている。レイズのジュニオール・カミネロ内野手は、日曜日の試合で代打出場の際、このバットを使ったが内野安打に留まったほか、オリオールズにもこのバットを「使ってみた」選手はいる。
「出塁するたびにバットについて聞かれる」とボルピー。
ベリンジャーはカブス時代の昨季に打撃練習で試した程度だった。
オフシーズンにルイビル・スラッガーの「トルピード」モデルに切り替えたベリンジャーは、四角いバレルのバットを振っているようだ、という指摘を笑う。確かにバレルは丸く、ベリンジャーはバットの端から端までよりバランスが取れていると感じている。
ベリンジャーはこう分析する。
「重量が手に近いように感じるため、バットが軽くなったように感じる。僕にとってはそれが最大の利点だ。スイートスポットが大きければ大きいほど、エラーの誤差も大きくなる」
土曜日、ブルワーズのネスター・コルテスからの5本の本塁打のうち4本(ゴールドシュミット、ベリンジャー、ウェルズ、ボルピー)は「トルピード」バットから放たれたが、左腕コルテスはバットのせいで打たれたとは思っていない。
12月にヤンキースからブリュワーズにトレードされたコルテスはこう話す。
「去年も使っていた選手がいるし、そのバットと自分が打たれたことは関係ないと思う。もちろん背後にある科学技術は理解するが、自分には関係ない」
ヤンキースのアーロン・ブーン監督は、新しいバットは試合を劇的に変えるほど大きな影響力はないとし、バットの形状変化をゴルファーのクラブ選択に例える。
「繰り返しになるが、我々はギリギリのところで勝負している。変化は様々な局面で見られる。バットのモデルはもちろんだが、ボルピーのような勢いのある選手が盗塁を磨くことも同様だ。我々は様々なことに投資をし、ありとあらゆる方法でより上を目指す集団だ」とブーン監督は断言する。
「メジャーリーグの基準の範囲内ということが全てだ。私がプレーしていた頃は、キャリアを通じておそらく6、7、8種類のモデルのバットを使っていた。それらは新しいものではなかったが、2025年の今、より多くの人たちが選手の最高のパフォーマンスを支えるために心血を注いでいる」
ブーン監督は組織が選手にバットを押し付けることはなく、選択は個人に委ねられていると語る。
ヤンキースのキャプテン、アーロン・ジャッジは 「トルピード」モデルのバットを振ったこともなければ、試す気もないという。
「ここ数シーズン、僕がやってきたことがその理由を物語っているよね」
満塁ホームランを含む3本塁打を放った土曜日の試合後、ジャッジはこのバットが話題になっていると知り、驚きを隠せなかった。
「野球にはトルピードバットを含めてたくさん新しいものがある。バットの底に小さなホッケーパックのようなものを付けてカウンターウェイトにしたりね。キャリアが進めていく上で何かを失い始めたら、そういった新しいものを加えることもあるかもしれないけれど、今はこのままでいいと思う」
ボルピーは、バットを振る感覚は昨年の旧モデルと同じだと語ったが、クラブハウスでの話し合いで次のような考えに納得したという。
「シーズン中に1球でもファウルを増やせるなら、1球でも球数を増やせるなら試す価値はあるかもしれない」
新しいバットは目に見える違いをもたらすのだろうか?
(1試合)9本塁打が常態化しない限り、まだはっきりしたことは言えない。
「結局のところ、気休めだと思う」とボルピーは言う。
「バットを見つめて、バレルの大きさを見るだけでワクワクする。0.01パーセントでも精神的に自信が持てれば、それで十分だと思う」
