2025年のワールドシリーズは終わったばかりだが、野球は止まらない。2026年のMLBシーズンはすぐに動き始め、フリーエージェント(FA)の選手たちにクオリファイングオファー(QO)を出すかどうか、そして提示された選手がそれを受諾するのか拒否するのか、といった決断が直ちに求められる。
QOは対象選手に提示できる1年契約のオファーで、金額は毎年わずかに変動する(2026年シーズン分は2202.5万ドル=約33億円)。球団はワールドシリーズ終了後5日以内に提示可否を決める必要があり、今年の締切は6日午後5時(米東部時間)となっている。それに対し、選手は11月18日までに受諾か拒否かを決める。受諾すればその金額であと1年チームに残留し、拒否すればFA市場に出る。
QOを拒否した選手を失った球団へのドラフト補償の詳細はここでは触れないが、制度開始から10年以上が経ち、傾向も見えてきた。2012年開始以来、QO提示は144件(年平均およそ12件)あるが、実際に受諾したのはわずか14件(10%)に過ぎない。QOの対象になるような選手は市場でより大型の複数年契約を得られる場合が多く、1年契約に甘んじないためだ。
もう一つの注意点は、すべてのFAがQO対象ではないことだ。シーズン中に複数球団に在籍した選手は対象外(ジョシュ・ネイラー、エウヘニオ・スアレス、シェーン・ビーバー、セドリック・マリンズ、メリル・ケリーなど)で、また、過去にQOを受けたことがある選手は再度受けられない。今年はピート・アロンソ、コディ・ベリンジャー、アレックス・ブレグマン、J.T.リアルミュートらがそれに該当する。
ここでは、そういった選手を除いて、QOの対象となる選手たちを見ていこう。
1)QOが「確実に提示され、確実に拒否される」選手たち
- ボー・ビシェット(ブルージェイズ/遊撃手)
- エドウィン・ディアス(メッツ/右投手)
- カイル・シュワーバー(フィリーズ/DH)
- レンジャー・スアレス(フィリーズ/左投手)
- カイル・タッカー(カブス/外野手)
- フランバー・バルデス(アストロズ/左投手)
ここに挙げたのはQO対象の最上位6人だ。経歴やタイプは様々だが、いずれも複数年の大型契約が見込まれるため、1年契約に応じる理由はない。ビシェットやタッカーはシーズン終盤に負傷したが、FA市場のトップクラスのタレントである事実は揺るがない。
もちろん、これが現所属球団からの流出を意味するわけではない。特にエドウィン・ディアスやカイル・シュワーバーは残る可能性は十分にある。QOは形式的な手続きであり、長期契約で上書きされる可能性も高い。
もちろん、QO提示はこの6人にとどまらない。あくまで彼らは「鉄板」の選手たちで、提示されないほうが驚きだ。理屈の上では、ボー・ビシェットが来季健康体でフルシーズンを戦い、2027年にFA市場に出るために、今季は1年契約を結ぶ可能性もゼロではないが、2025年の出来を考えると現実的ではない。
2)検討に値する選手たち
QO提示を巡って議論になりうる14人を挙げる。提示される選手もいれば、されない選手もいるだろう。まずは野手から。
野手
- ルイス・アライズ(パドレス/一塁手・DH)
- トレント・グリシャム(ヤンキース/外野手)
- ホルヘ・ポランコ(マリナーズ/二塁手)
- グレイバー・トーレス(タイガース/二塁手)
ルイス・アライズは意見が分かれるFAの代表例だろう。「三振の少なさ」という長所と「長打の少なさ・守備の弱さ」という短所がはっきりしており、獲得球団はこの2つを天秤にかけた上で判断する必要がある。2022〜23年の打率.335、OPS+128の価値は明白だが、自身ワースト級のシーズンとなった今季は打率.292、OPS+99と低迷。焦点は「来季2000万ドル(約30億円)超を払う球団があるか」より「レギュラー起用を約束する球団があるか」だ。
予想:QO提示なし。
対照的にトレント・グリシャムは、打率は低く三振は多いがパワーを備え、キャリア最高の34本塁打(過去最多の倍、うち21本はビジター)を放った外野手だ。34本の長打力は失いたくない一方で、走力・守備の明確な衰えと打撃の不安定さから長期契約はためらわれる。ヤンキースの外野はアーロン・ジャッジの大型契約があり、コディ・ベリンジャーの契約状況も絡んでやや複雑だが、QO締切時点ではベリンジャーは契約を結んでいない可能性が高く、タイミングはグリシャムにとって有利に働く。ヤンキースは、両者を同時に失う選択は避けたいはずで、ベリンジャーが戻ればグリシャムはトレード要員にもなる。
予想:QO提示あり、受諾。
ポストシーズンの活躍で見ればホルヘ・ポランコは簡単な判断に見えるが、シーズン中は浮き沈みが激しく、1年前にマリナーズは2025年の1200万ドル(約18億円)のオプションを蹴り、結果775万ドル(約12億円)で再契約している。球団側の再契約の意思は強そうだが、年俸をQO水準にまで一気に引き上げるとは考えにくい。
予想:QO提示なし。
グレイバー・トーレスは昨オフの掘り出し物で、1年契約に見合う以上の前半戦(OPS.812)を見せたが、後半は大きく失速(OPS.659)した。ただし、本人はヘルニアの痛みを抱えながらの出場が影響した面もあるとしている。タイガースは残留を歓迎し、直近の年俸1500万ドル(約22億円)からの昇給も不自然ではないが、本人は複数年を求めるだろう。そもそもタイガースは2014年以降QOを出していない。
予想:QO提示なし。
投手
- ディラン・シース(パドレス/右投手)
- ザック・エフリン(オリオールズ/右投手)
- ジャック・フラハティ(タイガース/右投手)
- ザック・ギャレン(ダイヤモンドバックス/右投手)
- ルーカス・ジオリト(レッドソックス/右投手)
- 今永昇太(カブス/左投手)
- マイケル・キング(パドレス/右投手)
- ロベルト・スアレス(パドレス/右投手)
- デビン・ウィリアムス(ヤンキース/右投手)
- ブランドン・ウッドラフ(ブルワーズ/右投手)
ディラン・シースは妙な年を過ごした。5年連続の200三振(同期間で3回以上は他にいない)を達成しながら、3年で実質2度目の防御率4.55。四球多め、ゴロ少なめの特性上、好不調の波もあるが、健康に投げ続け三振を量産できる先発は代替困難で、長期契約のオファーは確実だろう。ファンは防御率を見て驚くかもしれないが、球団が見ているのはそこだけではない。
予想:QO提示あり、拒否。
ザック・エフリンは防御率5.45、背中の負傷により7月でシーズン終了と、ここに入るのが意外に見えるかもしれない。ただローテに不安の多いオリオールズにとって、2024年加入後の好投で2025年の開幕投手を務めた事実は見逃せない。2024年並みの健康体を維持できれば、残留したとしても補償指名権を獲得するのでも、価値はある。QO額2202.5万ドル(約33億円)も、2025年の年俸から大きく乖離(かいり)しない。一方で背中の負傷はリスクが高く、より小ぶりな複数年での再契約が現実的だ。
予想:QO提示なし。
ジャック・フラハティは昨オフにFAで、浮き沈みのあるシーズンだったが、2019年以来最多の31先発と健康面はプラス。一方で、平均速球92マイルは自己最低と不安が残る。2026年の2000万ドル(約30億円)のプレーヤーオプションを行使して契約がまとまる可能性もある。QOは生涯一度きりのため、もしタイガースからの提示が見込まれるなら、わずかな昇給でも居心地の良い環境に残り、翌オフの不確実性を避ける選択もあり得る。複雑だ。
予想:プレーヤーオプション行使、またはQO提示→受諾。
正直、ザック・ギャレンは「鉄板枠」に入れてよい。ただし2025年は総じて苦戦し、防御率4.51となっている。それでも33先発と健康で、終盤は立て直した(ERA3.32、予測ERA3.29)。30歳という年齢も加味すれば市場で最注目の先発の一人だ。
予想:QO提示あり、拒否。
ルーカス・ジオリトは2024年を棒に振ったトミー・ジョン手術から復帰し、26先発、防御率3.41でローテーションに貢献。ただし他の基礎指標はあまり良くなく(予測ERA5.05)、10月は肘の張りで離脱した。QO額は2024年の年俸と大差ないが、ケガの不安を抱えたままのシーズン終了は重く見られる。
予想:QO提示なし。
今永昇太の契約事情は複雑だ。要約すると、カブスは3年5775万ドル(約87億円)の球団オプションがあり、行使しない場合は今永側に2026年の1525万ドル(約23億円)のプレーヤーオプションがある。双方が行使しなければFAとなり、QO対象になる。2025年の成績は後退したが、先発事情から見て3年案は悪くない。
*予想:当初は球団オプション行使と見たが、3日朝に「行使せず」の報が出たため修正。QO提示→拒否。
マイケル・キングは2024年に173回2/3、防御率2.95と好投したが、2025年は肩と膝の負傷で長期離脱。9月復帰後の数字が悪化したのはメッツ戦の大炎上が主因で、最終登板は7回2/3無失点で締めた。健康面の懸念は残るが、直近5年で466回、防御率2.99と実力は確かだ。シーズも流出濃厚で手薄なパドレス先発陣にとっては貴重なカードだ。受諾なら残留、拒否なら補償指名権を複数獲得。
予想:QO提示あり、拒否。
一方ロベルト・スアレスは難しい。2年連続オールスターの一流リリーバーだが、来季35歳。本人は残り2年1600万ドル(約24億円)をオプトアウトし、判断は球団側へ託された。メイソン・ミラー獲得でブルペンは層が厚く、救援にQOを出す可能性は低い。
予想:QO提示なし。
デビン・ウィリアムスは防御率4.79や派手な炎上などの表面的な印象に反して、基礎指標(予測ERA3.04、FIP2.68)は優秀。自身が引き継いだ6人の走者は全員抑えた一方、残した走者10人のうち7人を後続が還すなど不運も大きかった。ポストシーズンを含め13試合連続無失点で締めたが、ヤンキースでの長期的な残留はなさそうだ。
予想:QO提示なし。
ブランドン・ウッドラフは長年トップクラスの先発だったが、肩の負傷と手術で直近3年は苦しんだ。今季は12先発で概ね良好も、右広背筋の張りで終盤とポストシーズンを欠場。2000万ドル(約30億円)の相互オプションに1000万ドル(約15億円)のバイアウトという複雑さもあり、FAに出るだけで1000万ドルを得られる構図になっている。ここでQO提示・受諾となれば2025年は計3200万ドル(約48億円)の契約となり、近年の健康リスクを考えると現実味が薄い。
予想:QO提示なし。
3)以上を踏まえた予想まとめ
QO提示があると予想するのは計12人。例年並みの数で、ボー・ビシェット、ディラン・シース、エドウィン・ディアス、ジャック・フラハティ、ザック・ギャレン、トレント・グリシャム、今永昇太、マイケル・キング、カイル・シュワーバー、カイル・タッカー、フランバー・バルデス、レンジャー・スアレスがその対象になる。
この12人のうち、受諾の可能性が最も高いのはジャック・フラハティとトレント・グリシャムだ。最終的な答えは11月18日に明らかになる。
