野球の世界は予測不能だ。
それでも、この一打は必然だったのかもしれない。
2026年ワールドベースボールクラシック決勝。エウヘニオ・スアレスの一打でベネズエラを初の頂点へと導いた。
2026年ワールドベースボールクラシック
同点の九回、無死二塁。代走ハビエル・サノハが盗塁でチャンスを広げると、スアレスはフルカウントからの一球を振り抜いた。打球は鋭く左中間を破る決勝の適時二塁打。二塁に到達したスアレスは、両腕を大きく広げ、空を仰いだ。すべてを解き放つような歓喜だった。
「誰もベネズエラを信じていなかった。でも、僕たちは今日、優勝した」とスアレスはFOXのケン・ローゼンタールに語り、「これはベネズエラという国すべての人たちのための祝福だ」と続けた。
また、二塁上に立ったときの心境を問われると、「ただ祈っていた。スタンドにいる家族の方を指さしたんだ。みんなすごく喜んでくれていたよ」と振り返った。
その瞬間は、過去の記憶と重なる。
5カ月前、スアレスはシアトルで劇的な満塁本塁打を放ち、チームをワールドシリーズまであと一勝の位置へと押し上げた。しかし、その後の2連敗で夢は砕け散った。あの一打は、栄光ではなく“悔しさ”とともに記憶された。
だが、野球の神様は再び舞台を用意した。
初の決勝に進んだベネズエラ。その前に立ちはだかったのは、かつて涙をのんだアメリカだった。2023年、終盤に逆転を許したあの悪夢。
そしてこの日もまた、八回にブライス・ハーパーの一発で試合は振り出しに戻り、同じ気配が漂った。
だが、今回は違った。
その嫌な流れを断ち切ったのは、スアレスだった。
この一打は、単なる決勝打ではない。過去の悔しさを打ち消し、因縁を断ち切り、そして歴史を書き換えた一打だ。ベネズエラに初優勝をもたらしたその瞬間、スアレスは永遠に“英雄”となった。
