長年苦しめられてきた“鬼門”タンパベイでレイズにスイープを喫したブルージェイズ。なかなか波に乗り切れないチームで、大きな希望になっているのが岡本和真だ。
メジャー最初の3週間は、新しい相手と環境への適応もあってか、予想通り苦しいスタートとなり、最初の18試合での成績は打率.188、出塁率.263、長打率.290だった。
だが転機は4打数無安打となった4月17日(日本時間18日)のダイヤモンドバックス戦の翌日に訪れた。岡本は”ある変更”を加え、その試合で2安打を記録すると、その翌日には本塁打を含む2安打を放ち、打撃は一気に上向いた。
以降の18試合では打率.308、出塁率.400、長打率.708と劇的に改善。この期間だけ見れば、球界トップ10クラスに近い数字を残している。6日にレイズのエース左腕シェーン・マクラナハンから放った二塁打は、打球速度112マイル(約180.2キロ)で、自身のメジャーキャリアでも2番目に速い打球となった。
ある意味では、これはどんな打者にも起こる好不調の波とも言える。ただ、不振の打者が大きな変更を加え、その直後に結果が出始めた場合は、詳しく見てみる価値がある。何が変わったのか。
その変化とはもちろんケサディーヤ……ではなく、打席内での立ち位置だ。岡本はバッターボックス内で大きく後ろへ下がった。かなり大きく、正確には0.5フィート以上(約15センチ以上)もの移動だ。
メジャー平均で、打者はホームベース前端から約26インチ(約66センチ)後方に立つ。ただし個人差は大きい。ヒューストンのホセ・アルトゥーベは10インチ(約25センチ)ほどしか下がらず、逆にシアトルのJ.P.クロフォードは35インチ(約89センチ)後方に立ち、時には足がボックス後方ラインを越えることもある。
両者に約2フィート(約61センチ)もの差があることからも分かるように、正解は一つではなく、自分に合った位置が重要だ。アルトゥーベ(9.9インチ/約25センチ)、ザック・ネト(16.4インチ/約41.7センチ)、ヘラルド・ペルドモ(17.9インチ/約45.5センチ)のように前寄りで成功している打者もいれば、ベン・ライス(33.9インチ/約86.1センチ)やコディ・ベリンジャー(33.4インチ/約84.8センチ)のように深く立つ打者もいる。
このように、自分に適した立ち位置を見つけられるかどうかは打者にとって肝心だ。2024年終盤にピート・クロウ=アームストロングが打席位置を後ろにずらしたように、岡本の場合は20.9インチ(約53.1センチ)から27.7インチ(約70.4センチ)へと移動した。どちらも極端な数字ではないが、同期間の遠征中にこれほど大きく変更するのは珍しいことであり、ベースボールサバント(Baseball Savant)の打席位置トラッカーでもその変化は明確に確認できる。
また、ホームベースにも約1.5インチ(約3.8センチ)近づいているが、注目すべきはやはり“後ろに下がった”ことだ。その結果、何が変わったのか。鍵となるのは、もともと岡本の弱点と見られていた変化球への対応にある。
岡本がメジャー挑戦を検討していた頃から、これは様々なスカウティングレポートで指摘されていた。『ベースボール・アメリカ(Baseball America)』は「岡本は特に速球に対して破壊力を発揮する」と記し、『ファングラフス(FanGraphs)』も「速球を引っ張って長打にするタイミング感覚に優れている」と評価していた。
まさにその通りだった。岡本の最初の11安打のうち10本は速球を打ったもので、唯一違ったのは開幕戦でスコット・バーロウのスイーパーを捉えた単打だったが、それも詰まり気味のフライだった。当然、相手投手も気づいていた。4月中旬のミルウォーキー、アリゾナ、アナハイムを巡る9日間の遠征では、岡本より高い割合で変化球を投げられていたレギュラー打者はわずか4人だけで、その遠征前は35%だった変化球比率が、ほぼ半分近くまで増えていた。
打席位置の変更がこれを変えた。変更前、岡本の変化球に対する成績は打率.167、長打率.167だったが、変更後は打率.333、長打率.833へと急上昇。空振り率は44%から28%に低下し、ハードヒット率は27%から38%へ上昇した。
もちろん、これは単に慣れの問題かもしれない。岡本はメジャー挑戦から1カ月が経っただけで、まだまだ適応段階にあるだろう。ただ、以前ピート・クロウ=アームストロングが後ろへ下がり「できるだけ長くボールを見る」ことを可能にしたことで、変化球へのチェイス率を下げていたように、岡本も同様の効果を狙っている可能性はある。(※チェイス率:ゾーン外のボールの空振り率)
岡本も同様に、変化球の見極めが改善している可能性が高い。PCAと同じように、変化球へのチェイス率も29%から21%へ改善したが、より大きいのはストライクゾーン内の変化球を積極的に振れるようになった点だ。
その変化は数字にも表れている。ゾーン内変化球へのスイング率は48%から65%へ上昇。見逃しストライク率は50%から31%へ低下した。変化球に対するスイング位置のヒートマップでも、その変化は明確に確認できる。
すべてはスイング判断の改善につながっている。変化球に対するバットスピードは72.5マイル(約116.7キロ)から73.7マイル(約118.6キロ)へ向上。これは単純な筋力向上というより、守りのスイングではなく、自信を持って強く振れるようになった結果と言える。
さらに、インパクト位置も前になった。
以前は体の前28インチ(約71.1センチ)だったのが、現在は31インチ(約78.7センチ)超へ移動した。長打力は“前で捉える”ことと密接に関係しており、本塁打が最も出やすい理想的なポイントは36インチ(約91.4センチ)付近とされる。まだそこまでは達していないが、少なくとも“差し込まれすぎる”状態からは脱している。
どんな打者にも好不調の波がある。打率3割の打者ですら、毎試合3割で打てるわけではない。今回も岡本にとって一時的な好調期なのかもしれない。ただ、打席位置を後ろへ下げて以降、結果が出ているのは事実だ。後ろへ下がったことが、彼のシーズンを前進させたのかもしれない。
