2025年シーズンが終わり、熱を帯びるストーブリーグに突入した今、FA市場に出る注目選手たちを詳しく見ていく。
カイル・タッカー
- ポジション:右翼
- 所属チーム:シカゴ・カブス
- 2026年開幕時の年齢:29歳
- 2025年成績:136試合出場、打率.266/出塁率.377/長打率.464(OPS .841)、22本塁打、73打点、91得点、OPS+143、fWAR4.5
- クオリファイング・オファー:あり
昨冬、アストロズが12月中旬の大型トレードでカイル・タッカーをカブスへ放出したことは、大きな話題となった。4度のオールスター出場を誇るタッカーは、この冬も再び注目を集めるが、今回は自らの野球人生を大きく左右できる立場にある。初のFAとなる彼は、選手層の厚い今オフ市場でも、誰もが認める「ナンバーワン選手」と目されている。
2025年シーズン序盤こそ好調だったが、夏場に右手の骨に小さな亀裂が入り、打撃に影響が出た。さらに9月にはふくらはぎの張りで3週間以上離脱した。それでも最終成績は136試合で22本塁打、73打点、25盗塁、OPS .841と流石の出来。過去5年間にわたりfWAR4.2〜4.9と安定した成績を残しており、今市場で最も完成度が高く安定感のある選手といえる。
「今年も間違いなくFA市場のトップ選手だ。健康であれば、球界屈指の選手であり、まさに全盛期にある。間違いなく高額契約を手にするだろう」と、あるナ・リーグの幹部は語る。
では、契約額はいくらになるのだろうか?
シーズン前には「史上最大級の契約を結ぶのでは」との声も多かったが、今季のケガや打撃面でのやや停滞が影響を与えるのか。それとも、過去5年間にわたる安定した実績が、激しい争奪戦を引き起こすのか。ここから、詳細を予測していこう。
獲得候補チーム
カブス
2025年に年俸1650万ドル(約24億7500万円)だったタッカーの引き留めに動くと見られる。シカゴは他の契約分で3500万ドル(約52億5000万円)以上の年俸負担が減る見込みだが、これまで2億ドル(約300億円)以上の契約を結んだことのない球団が、タッカーの市場価値に見合う金額を支払うかは不透明だ。タッカーにとって、カブスでのプレーは1年限りに終わる可能性も十分ある。
ドジャース
このクラスのFAが市場に出るとき、常に話題の中心となるのがドジャースだ。資金力は申し分なく、マイケル・コンフォートが左翼で結果を残せなかったため、外野には空席が生じている。タッカーを右翼に起用し、テオスカー・ヘルナンデスを左翼に回すことで、その穴を埋める構想もある。ドジャースは今オフ約6500万ドル(約97億5000万円)分の契約が浮く見込みで、2025年と同程度の年俸総額を許容するなら、大型契約を結ぶ余地は十分にある。
ヤンキース
ヤンキースは、コディ・ベリンジャーとトレント・グリシャムの両外野手がFAとなるため、この2人の去就が大きく影響するだろう。グリシャムは2202.5万ドル(約33億円)のQOを提示されており、これを受諾すれば来季残留となるが、ベリンジャーは2年前に逃した長期契約を求めるだろう。より高額な契約になるとはいえ、タッカーは、1歳半年上のベリンジャーの後継候補として適任。既存戦力にはジェイソン・ドミンゲスとスペンサー・ジョーンズという若手有望株がいるが、2人を同時にスタメンに据えるのは現実的ではない。
ジャイアンツ
ジャイアンツは右翼が明確な弱点で、右翼手の打率.209、OPS .632、52打点はいずれもナ・リーグ最下位。シーズン中にラファエル・デバースをトレードで獲得し年俸総額を引き上げたが、チーム得点数はメジャー17位にとどまり、強豪ぞろいのナ・リーグ西地区で戦うにはさらなる長打力が必要だ。
フィリーズ
フィリーズは、カイル・シュワーバーとJ.T.リアルミュートの再契約に全力を尽くすと見られている。しかし、野球運営部長デーブ・ドンブロウスキーがチーム刷新の必要性を感じているなら、市場最高の選手を狙うという選択肢もある。今オフ、ニック・カステヤノスはトレードもしくは放出の可能性が高く、もしそうなれば右翼が空き、タッカー獲得への道が開かれるだろう。
メッツ
昨年、フアン・ソトと球界史上最大の契約を結んだが、それでもポストシーズン進出には届かなかった。では、この冬の対応はどうなるのか。鍵を握るのはピート・アロンソのFAだ。彼を残留させるには高額な年俸を支払う必要がある。タッカーは打線を確実に強化する存在だが、ソトとどちらかが左翼に回る必要が生まれる。興味深いのは、2015年ドラフトでアストロズがタッカーを全体5位で指名した当時、メッツのデービッド・スターンズ球団社長がアストロズのアシスタントGMだったという縁だ。
総括
ある球団幹部は、タッカーについて「若く、左右どちらの投手も打てる上に守備もうまい。後半戦の成績が少し落ちた理由も明確で、長期的な懸念にはならない」と評価した。
その言葉通り、実力自体について疑う余地はないが、ここ2年間のケガの多さは「健康を保てるか」という懸念を生んでいる。2024年には右すねの骨折で78試合の出場にとどまり、2025年には右手の骨折と左ふくらはぎの張りに苦しんだ。
右手のケガでは負傷者リスト入りこそしなかったが、打撃に影響が出た。一方でふくらはぎの張りにより9月に3週間以上の離脱を強いられた。これら2つのケガは偶発的なものといえるが、「最も重要な能力は出場できること」という言葉もある通り、30歳を目前にしたタッカーにとって健康面の不安は完全に無視できるものではない。
シーズン前には、タッカーが今オフに総額4億ドル(約600億円)を超える契約、あるいは5億ドル(約750億円)に迫る契約を結ぶのではと噂されていた。しかしケガと打撃面のやや停滞を経た今でも、その水準の契約を狙えるのだろうか。
これまで4億ドルの壁を越えた選手は、フアン・ソト、大谷翔平、ブラディミール・ゲレーロJr.、マイク・トラウトの4人のみで、3億ドル(約450億円)以上の契約を結んだ選手は13人いる。2018年以降、10年以上の契約を結んだFAは7人で、そのうち6人が30歳を迎える前に契約している。タッカーは来年1月に29歳となるため、10年契約以上の長期契約も十分にあり得る。
