野球は昔から、日常生活で不便を強いられる左利きの人々にとって、安らぎを得られる場所だった。ハサミや自動改札機、急須は左利きにとって使いづらいかもしれないが、この競技は違う。野球では左打者の方が一塁に近く、右投手が多数を占めるため球筋も見やすい。さらには、ヤンキースタジアムの右翼には本塁打が出やすい短いフェンスまである。
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しかし、左打者が有利な条件をこれほど結果に結びつけているシーズンは珍しい。左打者の躍進は、2026年を象徴する現象の一つとなっている。
その傾向は、量と質の両方に表れている。(以下のデータは5日/日本時間6日の試合終了時点)
量
- 今季、規定打席に到達している左打者またはスイッチヒッターは85人に上り、30球団制となって以降では最多となっている。シーズン終盤にケガ人が出ることを考えれば、今後は増えるより減る可能性の方が高い。それでも、近年と比較すると驚異的な数字だ。2022年は30球団制以降最少の49人にとどまり、その後の3シーズンは57人、58人、69人と推移していた。
- 別の角度から見ると、今季メジャー全体の打席のうち、スイッチヒッターが左打席に立った場合を含め、48.9%が左打席で記録されている。奇しくも両リーグで指名打者制が導入された最初のシーズンだった2022年は39.5%で、今季より9ポイント以上低かった。昨季でさえ44.0%と、今季を約5ポイント下回っている。
質
- 今季の規定打席到達者におけるwRC+ランキングを見れば、その質の高さも分かる。トップ10のうち7人、トップ30のうち19人が左打者またはスイッチヒッターだ。これが2022年は、トップ12のうち3人、トップ30のうち11人にすぎなかった。
- もう少し主観的な指標なら、MLB.comの記者とリサーチャーが2週間ごとに投票する「打者パワーランキング」はどうだろうか。6日に公開された最新版(英語記事)では、上位3人を左打者が独占し、トップ10のうち7人を占めた。これは偶然ではなく、今季はトップ10のうち最大9人が左打者だった時期もある。
- 今季のオールスター・ゲームで先発した野手18人のうち、11人が左打者だった。ナ・リーグの先発打線では7人を占めていた。
- 今季の左打者対右投手のwRC+は107で、少なくとも2002年以降では歴代2位タイ。トップ3のほかのシーズンも直近2シーズンとなっている。左打者対左投手のwRC+も89で、同期間のトップ5に入る。一方、右打者対左投手は101にとどまり、2022年の108から低下。右打者対右投手も2022年の98から94まで落ちている。
では、いったい何が起きているのか。
「野球にはある種のサイクルがある。長い間、ミギー・カブレラやアレックス・ロドリゲス、アルバート・プホルスなど、多くの右打者が活躍していた。単にサイクルが巡っているだけで、世の中とはそういうものだと思う。そこに明確な理由や法則があるとは思わない」と、ドジャースの左打者である三塁手マックス・マンシーは語った。
なるほど。確かに単純な話なのかもしれない。
しかし、おそらくそれほど単純ではない。
スター選手の顔触れには、ある程度の周期性があるのだろう。しかし、各球団がどの選手に出場機会を与えるかについては、綿密な計算が働いている。
言い換えれば、これほど多くの左打者が規定打席に到達しているのは、決して偶然ではない。
2025年の左右の組み合わせ別に加重出塁率(wOBA)を見ると、人数が最も少ない左打者が、最も多い右投手を相手に最高の成績を残していたことが分かる。
- 右打者 対 右投手:.307
- 左打者 対 右投手:.324
- 右打者 対 左投手:.313
- 左打者 対 左投手:.292
左打者が右投手を相手に記録したwOBA.324は、前年から5ポイント上昇。一方、右打者の左投手に対するwOBA.313は、2008年にピッチトラッキングが始まってから最低だった。
このような数字が生まれる環境であれば、球団が打席をどのように割り振るかにも必然的に影響する。それが、規定打席に到達する左打者が異例の多さとなっている理由の一つだ。
では、そもそもなぜこのような数字が生まれているのか。
ここからは、その理由を“左手で数えられるほど”紹介しよう。
1.変化球の急増
現代野球では速球の球速に大きな注目が集まるが、試合の結果により大きな影響を与えているのは、むしろ変化球の増加かもしれない。
今季は速球の平均速度が6年連続で上昇している一方、使用率は低下している。ピッチトラッキングの最初のシーズンだった2008年は、全投球の59.4%が速球系(フォーシームまたはシンカー)だった。それから18年が経過した今季、その割合は47.2%まで低下している。
その一方で、データの飛躍的な発展と、ボールや縫い目の動きを追跡する技術によって、回転への関心が急速に高まった。変化球の使用率は、ピッチトラッキングが始まった当初の23.5%から今季は30.3%まで上昇。2023年には31.1%に達していた。
変化球の増加に最も大きく寄与しているのが、スライダー系(スライダー、スイーパー、スラーブ)の球種だ。スライダー系の使用率は、2008年の14.4%から今季は22.2%まで上昇。過去2シーズンはいずれも過去最高の22.6%を記録していた。
ピッチトラッキングが始まって以降、左右どちらの投手も含めて、スライダー系に対する左打者のwOBAは.275、右打者は.269となっている。しかし、直近4年間に限れば、その差はさらに大きい。左打者の.292に対し、右打者は.278だ。
「左打者にとって、スライダーは自分の方へ向かってくるような球だ。バックドアで決められる場合は別だが、それでも自分の方へ向かってくる」と、現役時代に左打者として活躍したフィリーズのドン・マッティングリー暫定監督は説明した。
特にスイーパーの使用率は今季、全投球の8.4%と過去最高に達している。この球種は2012年までまったく使用されていなかった。今季のスイーパーに対するwOBAは、左打者が.288、右打者が.271。右投手が投げた場合はさらに大きな差があり、左打者の.316に対して右打者は.257となっている。
2.極端な内野シフトの廃止
2023年の大幅なルール変更の一環として導入されたこの措置は、期待されたほど攻撃面に大きな影響を与えていない。しかし、左打者に恩恵をもたらしたことは確かだ。
左打者が引っ張ったゴロの打率は今季.184で、2022年の.147を37ポイント上回っている。ルール変更後、この種類の打球の打率が.179を下回ったシーズンはない。
3.右腕の先発投手は球種が多い
オールスター期間中、このテーマについて複数の選手に意見を聞いたところ、ダイヤモンドバックスの左打者コービン・キャロルが、それまで考えていなかった理由を挙げた。
「右投手は以前にも増して多くの球種を投げているように感じる。6球種や7球種を考えなければならないため、右打者が右投手への対策を立てるのはさらに難しくなっている」とキャロルは語った。
差はわずかだが、キャロルの指摘は正しい。今季1000球以上を投げている投手を見ると、右投手は平均5.73球種、左投手は平均5.35球種を投げている。
大きな違いではないものの、これも現代野球で左打者に有利に働いている要素の一つだ。
4.ABSの導入
ABSチャレンジ制度の導入初年度となる今季、ボールとストライクの判定が覆ったケースは約4000球に上る。しかし、この制度はチャレンジされなかった多くの判定にも影響している。審判が従来より低く、狭いストライクゾーンに対応する必要が生じたからだ。
現在、メジャーの捕手は全員が右投げだ。いつか再び左投げの捕手が現れるかもしれないが、今はまだいない。右投げの捕手は左手にミットを着けるため、左打者にとって外角のボールゾーンに当たるミット側では、フレーミングによってストライク判定を引き出しやすい。
それが最も頻繁に起きるのが、ここで「ゾーン13」とされる外角低めだ。
ピッチトラッキングが始まってから、左打者への全投球のうち、実際にはボールであるにもかかわらず、ゾーン13でストライクと判定された割合が最大2.7%に達したシーズンもあった。2010年のことだ。今季は、ゾーン13でストライクと判定された投球が、左打者への全投球のわずか0.4%にとどまっている。ABS導入前の昨季も0.5%だったため、低下幅自体は小さい。しかし、審判は近年、ABSの導入に備え、ルールブック上の規定により近いストライクゾーンで判定するようになっていた。
実数に換算すると、今季の左打者がゾーン13でストライクと判定される投球は、2010年より6500球以上少なくなるペースだ。たとえスイングしても強い打球にするのが難しい外角低めのボール球を、不当にストライクと判定されるケースが大幅に減っている。
一方、右打者にとって外角低めのボールゾーンに当たる「ゾーン14」では、それほど大きな変化は見られない。同エリアでストライクと判定された割合は、ピッチトラッキングが始まって以降、最高だった2017年の1.5%から、今季は0.6%まで低下している。
こうしたすべての要因が重なり、2026年のメジャーでは左打者への急激なシフトが起きている。野球は昔から左打者に有利な競技だったが、その利点を今季ほど生かしているシーズンはほとんどない。
