マーリンズは今季から、ベンチのアシスタント投手コーチが相手打者の傾向や投手の状態を分析しながら球種を選択。指でサインを出し、捕手を介して配球を提案する独自のシステムを採用している。捕手はそのサインを球種に変換し、ピッチコムを通じて投手へ伝える。
「フロント、投手コーチ、捕手、投手が一体となり、最も良い球を最も効果的に使うための仕組みだ」
昨季から指揮を執るクレイトン・マカラー監督はそう説明する。
「他球団とは違うことに挑戦しようという考えがあり、その一つが配球だった。ドジャース時代から話題になっていたが、メジャーで実行しようとするチームは多くなかった」
現在、メジャーでマーリンズだけがこの方式を採用している。しかし、大学野球やマイナーリーグではすでに珍しいものではない。マーリンズも昨春の時点で導入を検討していたが、マカラー監督は「就任直後で新しい取り組みが多く、一度見送った」と振り返る。
その後、傘下のマイナー全チームで運用を開始。そこで得た経験をもとに準備を進め、昨年9月からメジャーでも本格的に導入した。
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一部では、指で「1-1-2」などの数字を使ったサインが相手に解読される可能性も指摘される。実際、ベンチから出されるサインを見ながら、相手チームのスタッフがメモを取る光景もあるが、マカラー監督は、その懸念を一蹴する。
「相手が解読を試みても、サインは常に変わる。時間の無駄だと思うし、実際には不可能だ」
サインの組み合わせや対応表は頻繁に変更されるため、相手が法則を見つけ出すのは極めて難しいという。球団側は、このシステムが外部に読み取られるリスクは、ほぼないと考えている。
選手たちの反応と採用の理由
とはいえ、新しい仕組みを全員が最初からすんなり受け入れたわけではない。
「13人の投手の中で、積極的にやりたいと言ったのは5人くらい。懸念を持っていたのが4人くらい。残りは中立だった」と、指揮官は、昨年シーズン中に選手たちへこの構想を説明した当時をそう振り返る。
「投手側の主な懸念は、自分で球種を選べなくなることと、ピッチクロックへの対応だった。いつでも首を振っていいこと、あくまでも提案だと話し、実際の運用に支障はないと説明した」
球団は時間をかけてバッテリーに丁寧に説明し、運用のメリットや効率性を共有。昨季の終盤に試用期間を設け、今季から本格導入に踏み切った。
この仕組みの効果を数字だけで測ることはできない。ただ、マーリンズは相次ぐ先発投手の負傷に苦しみながらも、74試合を終えて36勝38敗、勝率.486と善戦している。
チーム防御率4.17は17位。先発防御率4.68は28位と低迷する一方で、中継ぎ防御率3.47はリーグ7位を記録しており、限られた戦力で踏ん張っている。
「誰がサインを出したか」は本質ではない
投手コーチがベンチから配球を指示する。
そう聞いたとき、「グラウンドに立っていない人が最終判断をするのか」と違和感を持った人は多いはずだ。それは、そのまま現場の一部の投手や捕手が抱いた感覚とも重なる。
ロブ・マルチェロアシスタント投手コーチが配球を決める仕組みに対して、「第三者が投球をコントロールすること」への反発は当然あった。
しかし、首脳陣はこの議論を別の角度から捉えている。
「投手がマウンドで目を閉じて、ピッチコムから『スライダー』と聞こえた時、それが誰の声か知る必要はあるのか。捕手が出すか、ベンチが出すかの違いに過ぎない」
本質は「誰が指示したか」ではなく、「何を投げるか」という考え方だ。
ピッチコムを装着した捕手が球種を伝え、投手がマウンド上で実行する。そのサインの出所がベンチなのか、捕手かに関わらず、結果として投手が「提案」を受け取る構造に変わりはない。そのため、球団側は本質的な意思決定の構造は同じだと説明する。
投手たちはどう受け止めたのか?
中継ぎのアンソニー・ベンダーはこう語る。
「最初は違和感もあったけれど、今は捕手以外にも配球の決定に参加してくれている感覚がある。むしろ心強い」
ただし、完全に依存しているわけではない。
「1試合で2、3回は首を振るかな。その日の感覚でスイーパーを多く使うこともあるし、シンカーに寄せることもある」
ベンチとマウンドは固定された関係ではなく、試合中も常に対話しながら調整されていく。
同じく中継ぎのマイケル・ピーターセンも、「僕自身はヒートマップ(打者の得意、不得意のデータ)などをそこまで見ないタイプなので、逆に情報を持っている人が別にいるのは助かる」と肯定した上で、「年長の中継ぎや先発投手、経験豊富な捕手なら、自分で相手を研究してきたプライドがあるから、ぶつかる部分はあると思う」と“反対派”にも理解を示す。
ただ、ピーターセンは、一番良い球をコーチが指示してくれることで自信が生まれるともいう。
「『誰かに決められている』という感覚はない。むしろデータを全部持っている人が『きょうはこの球がいい』と決めてくれることで、自信を持てる場面も多い」
ベンダー、ピーターセンの2人は口を揃える。
「最終的に配球が気に入らなければ首を振ればいい。速球のサインでもカーブに変えられる」
マカラー監督はこの取り組みについてこう総括する。
「重要なのは全員が同じ方向を向くことだ」
試合中の修正も頻繁に行われるほか、試合後には必ずレビューが行われる。
「ある球種でストライクが取れなければ別の選択肢を使う。投手が首を振った理由も必ず確認するし、逆に投手からも理由を聞かれる」
マウンド上の判断を組織全体で支えるこの仕組みは、メジャーの現場に変化をもたらしつつある。今季から同様の制度を導入していたロッキーズは、すでに運用を取りやめたと伝え聞くが、今後、他球団にも広がるのか、それとも一部にとどまるのか、その行方が注目される。