「日本で過ごした時間が大好きだった。野球選手としても、一人の人間としても成長することができた。僕にとって、日本は第二の故郷のように感じられる場所」
かつて北海道日本ハムファイターズ、福岡ソフトバンクホークスでプレーしたニック・マルティネス(愛称マルちゃん)は、日本について愛着を込めてそう語る。
レイズの36歳右腕は今季、先発として180イニングを投げ、15勝6敗、防御率3.10を記録。レギュラーシーズンを通して安定した投球を続け、チームのワールドシリーズ進出に大きく貢献した。
その成長を語るうえで欠かせないのが、日本で過ごした3シーズンだ。
2014年から2017年までレンジャーズでプレーしたマルティネスは、メジャー最初の4年間で通算17勝30敗、防御率4.77。先発ローテーションに定着できず、2018年に新天地の日本へ渡った。日本ハムとソフトバンクで計3シーズンを過ごし、通算21勝22敗、防御率3.02をマーク。特にソフトバンクでプレーした2021年は、9勝4敗、防御率1.60と好成績を残した。
メジャー復帰後はパドレス、レッズ、レイズで先発と救援の両方をこなし、投手としての幅を広げた。そしてワールドシリーズでも、ブルワーズとの第1戦で先発。初回に2点を失ったものの、その後は立ち直って相手打線を抑えると、さらに第4戦では中継ぎとして登板し、2イニングで無失点の好投を見せた。
日本で何を学び、それがメジャー復帰後の投球にどう生きているのか。マルティネス本人が明かした「進化の舞台裏」を前後編で追う。
ファウルで粘る打者との対戦が磨いた配球術
日米両方のマウンドを経験したことで、マルティネスはタイプの異なる打者への対応も学んだ。
「アメリカでプレーし、日本に行き、またアメリカに戻ったことで、2つの異なるスタイルを学べた。長打を狙う打者なのか、コンタクトを重視する打者なのか。相手の特徴を見極め、それに応じて投球を変えられるようになった」
日本にも長距離打者はいるが、コンタクトを重視し、ファウルで粘る打者も多い。そうした打者との対戦を通じて、マルティネスは攻め方の幅を広げた。
「簡単に妥協せず、集中力と積極性を保つことを学んだ。コースや球の軌道、球速を変えて、打者のタイミングを崩すんだ」
コンタクト型の打者はスイングを修正する能力が高く、簡単には三振を奪えない。ファウルで粘られているのに空振りを狙い続ければ、投手の方が苦しくなる。
「ストライクを投げられなかったり、ファウルで粘られているのに空振りを追い求めたりすると、うまくいかなくなる。日本で学んだことは、アメリカでの投球にも確実に役立っている」
中6日の登板と「3・4巡目」への対応で新境地に
日本での経験は、より長いイニングを投げる機会にもつながった。
メジャーは中4日でローテーションを回ることが多く、序盤に失点するとすぐに交代することも珍しくない。しかし、日本のプロ野球は中6日で登板する。回復期間が長いことで、より多くの球数を投げられるようになったと話す。
「週に1度の登板で、次の登板まで6日間あると、しっかり回復できる。その分、より多くの球数を投げられる。長いイニングを投げ、コンタクト型の打者と試合終盤まで対戦する経験も積めた」
日米に関わらず、同じ打者と3巡目、4巡目に対戦する場面では投手としての技量が求められる。
「粘り強い打者と3巡目、4巡目に対戦するのは難しい。日本では、どんな球にも食らいついてくる打者を相手に、同じパターンに陥らず、どう打ち取るかを学んだ」
打者が投球に慣れてくる試合後半は、同じ攻め方を続けるわけにはいかない。相手の反応を見ながら配球を変え、打ち取る方法を探る。日本での経験により、メジャーでも投球の引き出しを増やすことができた。
打者の狙いを察知し、自らも修正する能力
マルティネスが日本で身につけた最も大きな力の一つが、試合中に投球を修正する力だ。試合前に立てたプランが機能しなくなったとき、打者の対応に合わせて、投手も変化しなければならない。
「プランがうまくいかないなら、打者が対応してきたということ。だから、こちらも修正する必要がある」
そのためには、打者が何を狙っているのか、試合の中で何が起きているのかを注意深く見ることが欠かせない。経験を積むほど、修正が必要なタイミングにも気づきやすくなるという。
だが、メジャーでは厳しい投球数管理がされているため、どれだけ調子が良くても100球前後で交代させられる。打者を打ち取れる感覚や手応えがあっても、あるいは試してみたい配球があったとしても、「メジャーはテンポが早すぎて試すことができない」とマルティネスは説明する。
「自分の場合、その経験を得たのは日本だった。チームから求められ、より長いイニングを投げる中で、試合の流れを読み、対応する力を身につけた。メジャーでそうした経験を積む選手もいると思う。僕は日本でその経験を積み、アメリカに戻ってからの投球に生かすことができた」
レンジャーズ時代の苦戦を経て日本へ渡り、再びメジャーのマウンドに戻ったマルティネス。日本での経験は、変化球の改良から、粘る打者への対応、長いイニングを投げる経験、そして相手の変化を察知して自らも投球を変える力まで、幅広く決定的な収穫をもたらした。
ワールドシリーズ初戦での巻き返しが示したように、課題を見つけ、試行錯誤を重ね、必要に応じて自らを変えていく。日本で磨いたその姿勢と高い対応力こそが、メジャー復帰後の彼の飛躍を支えている。
※後編では、日本で新たに身につけた球種や、日本での生活などについて語ってもらった。