【ドジャース8−9パイレーツ】ピッツバーグ/PNCパーク 6月10日(日本時間11日)
メジャー初本塁打の瞬間、普通なら待っているはずの“儀式”がなかった。
今季4月30日にメジャー昇格したタイラー・キャリハンが、大谷翔平からメジャー初本塁打を放った。
記念の一発を放ったキャリハンは、先頭打者スペンサー・ホーウィッツのバットフリップをまねしながら上機嫌でダイヤモンドを一周。ベンチに戻ると、チームメートたちから盛大な祝福を受けた。
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一見、普通のことだが、よく考えると不思議な光景だった。
メジャーでは初本塁打や初安打を記録した選手がベンチへ戻ってくると、チームメート全員が知らんぷりを決め込む「サイレントトリートメント」が恒例行事になっている。主役を一瞬だけ孤独にさせ、その後に盛大な祝福を浴びせる。今や大リーグの名物ともいえる文化だ。
ところが、この日は最初から祝福ムード一色だった。
なぜ誰もサイレントトリートメントをしなかったのか。
キャリハンは笑いながらこう説明した。
「みんな、これが僕のメジャー初本塁打だって知らなかったんだと思うよ」
すると、そのやり取りを聞いていたマルセル・オズナがすかさず反応し、「みんなはともかく、俺は知ってたぞ!ちゃんと覚えていたぞ!」となぜか必死の弁明が始まり、周囲の笑いを誘った。
キャリハンも苦笑いしながらフォローする。
「僕はマイナーから来たばかりだったから。彼は知っていたけど、他の選手たちは知らなかったと思う」
するとオズナはさらに続けた。
「違うんだ。大谷から打ったホームランだからサイレントトリートメントなんかじゃなくて、ちゃんと祝福してやりたかったんだよ」
一生に一度のメジャー初本塁打の儀式をしてあげたかった先輩心と、それ以上に素直に喜んであげたい気持ち。その二つが天秤にかけられた結果だったのかもしれない。
メジャーリーガーたちは普段、「相手が誰であろうと同じ」「162試合のうちの1試合に過ぎない」と口をそろえる。大谷翔平との対戦について聞かれても、多くの選手はクールに対応する。
しかし、本音の部分では少し違うのかもしれない。
大谷から打った初本塁打。
大谷から奪った三振。
選手たちは表立って特別視しないけれど、それが野球人生の中で少しだけ誇らしい記憶として残ることもまた事実なのだろう。少なくともキャリハンにとってはそうだ。
ちなみに、その記念の打球は右翼席を越え、球場外の川沿いのプロムナードへ着弾。さらにバウンドして川へ落ちてしまったという。
試合後、2本塁打の活躍でゲータレードシャワーを浴び、全身ずぶ濡れになったキャリハンに、「(どうせなら)今から川に飛び込んでボールを探したらどう?」と冗談交じりに聞いてみた。
すると本人は笑いながら首を振った。
「いや、思い出だけで十分です」
メジャー初本塁打のボールは手元には残らなかった。
それでも、大谷翔平から放った記念の一発は、ボールよりも長く、彼の記憶の中に残り続けるのだろう。