【前編】 「マーフ・ボール」の哲学 パット・マーフィー監督が選手に求める「考える野球」

October 27th, 2026

「マーフ・ボール」

ブルワーズを率いるパット・マーフィー監督の野球は、関係者や選手たちの間でそう呼ばれている。監督の愛称「マーフ」にちなんだ呼び名だ。

長打だけに頼らず、バントや走塁で局面を動かす。打席では簡単に打ち取られず、ファウルで粘り、四球でも出塁する。たとえ好調な打者であっても、チームに必要な場面では犠打や進塁打を要求される。

「場面ごとに求められることを、正確に、そして的確に実行することが大切なんだ」

選手たちは、ブルワーズの野球についてそう口をそろえる。

マーフィー監督自身は「マーフ・ボール」と呼ばれることに少し気恥ずかしさを感じているようだ。それでも、右翼手のサル・フリーリックは「みんなそう呼んでいるんだから、どんどん使っていいよ」と言うので、ここでもあえて「マーフ・ボール」と呼ぶことにする。

ルーキーもチームに適応し、持ち味を生かしたプレーができる理由

ブルワーズの強みは、新加入の選手が打線でうまく機能し、それぞれの持ち味を発揮できることだ。毎年、選手によって経験や実力の差はあっても、自分の役割を理解し、求められるプレーを実践している印象が強い。

今季も、22歳のクーパー・プラットや21歳のルイス・ララといった若手が夏に昇格し、ワールドシリーズのロースター入りを果たした。プラットは遊撃守備に加え、ポストシーズンでも打率.286をマーク。ララも守備固めや代走として貢献している。

メジャー昇格後もそれぞれの持ち味を発揮できる背景には、マイナーから一貫してチームの方針を学ぶ育成システムがある。

マット・アーノルドGMは、若手が役割の変化に適応する重要性を指摘する。

「若手の多くは、それぞれの(2Aや1Aなど)マイナーのレベルでチームの中心となる選手で、ずっと3番や4番を打っていると、その役割に慣れてしまう。でも、メジャーに来れば、同じ打順を任されるとは限らない。自分がどのような役割を果たすべきか、マーフィー監督の攻撃方針にどう適応するのかを考えなければならない」

ベテラン投手のブランドン・ウッドラフも、球団全体で共通の基準を設けていることを強調する。

「マイナーから昇格してくる過程で、必要な野球を学んでいる。メジャーに上がるころには、チームのシステムや、メジャーで求められることが分かっているんだ」

メジャーに昇格してから、下位打線での役割を理解し、実践するよう求められても、すぐに対応できるとは限らない。ブルワーズでは、マイナーの監督やコーチがメジャーで求められることを伝えるとともに、選手それぞれの特性を見極めて指導する。昇格前からチームの方針を共有することで、新たな役割にもスムーズに適応できる環境を整えている。

ウッドラフは、プラットやララについて「自分の長所を生かしたプレーをしてほしい。守備で貢献し、本塁打を狙いすぎず、できるだけ多く出塁してほしい。彼らの持ち味は、本塁打を打つことじゃないからね」と語る。

全員に同じ役割を求めるのではなく、それぞれの長所を生かしてチームに貢献する。マイナーからの共通認識が、メジャー昇格後でも若手のスムーズな適応を支えている。

「ストライクを振り、ボール球は見送れ」——すべての打席に求められる意識

ホワイトソックスから移籍した一塁手のアンドリュー・ボーガンは、ブルワーズの野球に適応するために必要だったことを、こう振り返る。

「僕がやるべきだったのは、ミルウォーキーの一員としての野球を理解し、その考え方を受け入れることだった。マーフィー監督は常に『ストライクを振り、ボール球は見送れ』と言う。当たり前のように聞こえるけれど、これこそが打者にとってすべての基本。ストライクが来れば強い打球を打ち、四球でも進塁打でも、泥臭く出塁を目指すんだ」

ストライクを打ち、ボール球を見極め、出塁の可能性を追求する。基本を徹底することが、ブルワーズの攻撃を支えている。

マーフィー監督は選手に対して率直に意見を伝えるタイプで、ボーガンは「時には身が引き締まるような厳しい言葉も飛んでくる」と語る。

積極性に欠けたり、怠慢なプレーがあれば、すぐに叱責が飛ぶ。「チームのほとんどの選手にその経験がある」と選手たちは振り返る。厳しい要求の先にあるのは、選手それぞれが自分の役割を理解し、チームとして同じ方向を向くこと。その共通認識が、ブルワーズの野球の土台になっている。

「ここは本当に特別な仲間が集まったチームだ」とチームへの思いを口にする。

※後編では、マーフィー監督の指導法やチームマネジメントに迫る。