ビデオゲームの世界では、「ボス」と「最後のボス」には明確な違いがある。
途中で立ちはだかるボスたちは、それぞれが一つの強力な能力を持ち、プレーヤーを鍛え上げながら物語をクライマックスへ導く存在だ。
そして、その積み重ねの先にある“最後の戦い”、ゲームをクリアするための最終決戦が待っている。
ブルージェイズは、球界で最も完成された打者の一人であるアーロン・ジャッジを倒した。
本塁打王カル・ローリーも打ち破った。
そしていま、その先に立ちはだかるのは大谷翔平(31)。
“ラスボス”だ。
野球界の「アベンジャーズ」に例えるなら、大谷は32年ぶりのワールドシリーズ制覇を狙うトロントに立ちはだかる唯一の存在だ。
これまでブルージェイズが倒してきたすべての強敵の要素を合わせ持つ怪物のような存在であり、山頂で火を吐くように強力だ。
「彼はまったく別次元の選手だ。フィールド上でできることは、他の誰にも真似できない」とブルージェイズのジョン・シュナイダー監督は語った。
「アーロン・ジャッジやカル・ローリーに最大限の敬意を払ったうえでね」
ジャッジやローリーと同じように、大谷を“支配する”ことはできない。できるのは“生き残る”ことだけだ。
完璧である必要はない。ブルージェイズに求められるのは、ただこの戦いを生き延びることだ。
大谷は、ブルージェイズのあらゆる投手起用に影響を与える存在だ。
トロントの先発陣は、打線の先頭に立つ大谷をできる限り抑えなければならないが、このシリーズの命運を左右するのは、シュナイダー監督が中盤でどんな采配を下すかだ。
ジャッジやローリーと同じように、大谷は試合の流れを決定づける存在だ。
シュナイダー監督が最初に動かなければならない。その分岐点となる瞬間が、いつも大谷の打席で訪れる。
「彼は明らかにエリート級の才能だ」とシュナイダー監督。
「打順の先頭が回ってくる場面を常に強く意識しないといけない。どう対応するか、いつ手を打つかは徹底的に話し合ってきたし、その場の状況を読まないといけない。相手は素晴らしいチームで、打順上位には殿堂入り級の選手が3人いる」
第1の対決:トロントの右投げ先発陣 vs. 大谷翔平
大谷の今ポストシーズンで最悪のシリーズはナ・リーグ地区シリーズで、フィリーズ相手の20打席のうち16打席が左投手との対戦だった(結果は18打数1安打、2四球、9三振)。イェサベージ、ケビン・ゴーズマン、シェーン・ビーバー、マックス・シャーザーはいずれも右投げだ。
イェサベージとゴーズマンは、いわばスプリット系の投手。要注意だ。大谷はその球種を打ち砕く。
右投手のスプリットに対して、大谷はドジャース加入以降、打率.358、長打率.868、ハードヒット(打球初速95マイル=153キロ以上)率63%という驚異的な数字を残している。
しかし、ゴーズマンとイェサベージのスプリットは特別で今ポストシーズンではこの球種で左打者を合計44打数3安打(打率.068)、19三振、1四球に抑えている。まさに「力と力の勝負」だ。
シャーザーとビーバーも同じグループに入るだろう。ベテラン右腕2人に求められるのは「カーブで勝負する投手」であることだ。ビーバーのナックルカーブはシャーザーのカーブより使用頻度が高い。どちらも大谷に対して有効な選択肢になり得る。大谷が右投手相手に最も空振り率が高い球種はカーブで、その数字は45%に達する。
一方で、シャーザーもビーバーもスライダーとカットボールを多投するが、大谷はこの軌道の球を得意としている。2025年、大谷は右投手のスライダーとカットボールに対して打率.311、長打率.784、ハードヒット率68%をマークしている。
ナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦で推定469フィート(約143メートル)に飛ばした本塁打も、ゾーンの内寄り、低めのカットボールを仕留めたものだった。
シャーザーとビーバーの両投手は、第3戦と第4戦のいずれかで先発すると見られており、大谷を抑えるには、追い込んでからのカーブが最大の武器になるかもしれない。
第2の対決:トロントの救援陣 vs. 大谷翔平
ブルージェイズがワールドシリーズを制するためには、意外なリリーフのヒーローが必要になりそうだ。
いずれかの場面で、ブレンドン・リトル、メイソン・フルハーティ、またはエリック・ラウアーの誰かにスポットライトが当たるだろう。特にフルハーティは、すでに8月10日の対戦で大谷を三振に仕留め、自身初のセーブを挙げるという大きな場面を経験している。
まず重要なのは「腕の角度」だ。
リトル(腕の角度35度)、フルハーティ(34度)、ラウアー(36度)の3人はいずれも平均より低い角度から投げるため、左対左の場面では独特の投球フォームが生まれる。2025年のデータを見てみよう。
大谷翔平 vs. 腕の角度が40度以上の左投手
107打席
打率.319/長打率.726
11本塁打、長打21本
三振率24%、四球率11%
打撃ランバリュー「+17」(平均的な打者より、17点の得点に貢献した)
大谷翔平 vs. 腕の角度が40度未満の左投手
127打席
打率.238/長打率.347
3本塁打、長打4本
三振率33%、四球率6%
打撃ランバリュー「−2」
ナ・リーグ地区シリーズのフィリーズ戦は、その典型例だった。
クリストファー・サンチェス、ヘスス・ルサルド、レンジャー・スアレス、マット・ストラムの4人はいずれも腕の角度が低く、大谷は4投手に対して15打数1安打、8三振と完全に抑え込まれた。
リトルのシンカーはここで有効な武器になる可能性がある。
あるいはブルージェイズは危険を承知で、リトルのカーブやフルハーティのスライダーなどの変化球を集中的に投げ、大谷を揺さぶる策を取るかもしれない。大谷は左投手の変化球に対して空振り率38%と高い数字を残しているが、同時に打率.333でもあるため、当てられたときの一撃は脅威となる。
また、2人はいずれもカットボールを持ち球としており、大谷が左投手からこの球種を見た割合は2025年でわずか3%にすぎない。そのため、意表を突く効果も期待できる。
いずれにせよ、最終的に誰かが大谷と対峙しなければならない。
それが守護神ジェフ・ホフマンであれ、このシーズン最後の舞台で現れる意外なヒーローであれ、ブルージェイズがワールドシリーズを制するには、“ラスボス”を倒すしかない。

