史上最高の野球選手である大谷翔平(31)は、レギュラーシーズン史上最高のパフォーマンスを見せ、ポストシーズン史上最高のパフォーマンスを見せ、そして今度はワールドシリーズ(WS=7回戦制)史上最高のパフォーマンスを見せる可能性がある。
要するに、史上最高の野球選手だということだ。
私にとっての”レギュラーシーズン史上最高”は、2024年9月19日、対マーリンズで大谷が記録した6打数6安打だ。3本塁打、2二塁打(うち1本はほぼ本塁打だった)、2盗塁、10打点と、まさに圧巻だった。
もちろん、他にも候補者がいる。2002年に1試合4本塁打を放ったドジャースのショーン・グリーン、あるいは今年1試合4本塁打を放った、アスレチックスの新人ニック・カーツ(ともに1試合19塁打でメジャー記録)を挙げる人もいるだろう。
投手に注目するなら、ケリー・ウッドの1試合20奪三振、サンディ・コーファックスやマット・ケインの14奪三振完全試合、あるいはアルマンド・ガララーガの「実質28アウト完全試合」を挙げる人もいるだろう。あるいは、大谷自身が投打で活躍した他の試合も候補になる。
しかし私にとっては、「50-50クラブ」入りを達成し、チームのプレーオフ進出を決めたという文脈が、あのマイアミでの試合を「史上最高のレギュラーシーズンの試合」に押し上げている。とはいえ、最終的には人それぞれだ。
では、史上最高のポストシーズンの試合は?
10月17日、ナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS=7回戦制)でドジャースが5-1で勝利し、ブルワーズをスイープした試合での大谷のパフォーマンスに異論を唱えるのは難しいのではないだろう。打者として3本塁打、投手として6回無失点、10三振。その試合でリーグ優勝を決めた。
これを超えるのは至難の業(わざ)だ。ドン・ラーセンは打者として2打席無安打だったし、レジー・ジャクソンは(少なくとも私の知る限り)三振を奪ったことはない。大谷は異次元すぎて、比較対象を見つけることすら難しい。
ここでまた、冒頭の文章へと再び戻ろう。
大谷翔平という存在は、「史上最高の野球選手」と形容することに全く違和感がない。それほどまでに、野球の常識を当たり前のように破壊している。しかし、私たちは、時には顔を洗って冷静になり、いま目にしているものが、いかに「前人未踏の偉業」であるかを思い出す必要がある。
大谷の登場以降、次世代の二刀流の育成を目指す球団は多く現れた。しかし、今のところ「オオタニ」は唯一無二の存在だ。確かに、打者としては、ベーブ・ルース、バリー・ボンズ、ハンク・アーロンといった選手たちが、投手としては、ウォルター・ジョンソン、グレッグ・マダックス、サイ・ヤングといった選手たちが、成績では上回るだろう。だが、一人の人間として、(本当に人間だとして)これらの選手と比較される領域にいながら、投打を両立した選手は、これまで一人もいなかった。
それでも、もし大谷に対してまだ、議論の余地があるとすれば(世間はケチをつけたがるものなので)、それはWSでまだ決定的な活躍をしていないという点だろう。
初めての出場となった昨年は、第1戦でヤンキース相手に得点につながる二塁打を放った。もし第2戦で二盗を試みた際に左肩を脱臼していなければ、あのシリーズは特別なものの始まりになっていたかもしれない。(肘の靱帯を断裂して、肩を脱臼しているというのは、いかにも人間らしい。私はまだ半信半疑だが)
現時点での大谷のWS成績は、打率.105(19打数2安打)で、登板はまだ一度もない。
しかし大谷は、2025年のWSを、投打において万全の状態で迎えることができる。だからこそ、私たちは、大きな夢と期待をかけることができる。
改めて、冒頭の文章に戻り、「ワールドシリーズ史上最高の試合を行う可能性」について考えてみよう。どんな「史上初」が生まれるのか。夢は大きければ大きいほどよい。ここでは、起こりうる可能性が高い順番に5つのシナリオを紹介していく。
1.投手として史上最高の打撃成績を残す
大谷が、WSで先発登板することを前提に、過去の投手の主な記録と比較してみよう。
- WSの投手最多安打:3本(過去5人、直近では1988年の第2戦でドジャースのオーレル・ハーシュハイザー)
- WSの投手最多本塁打:1本(過去15人、直近では2008年の第4戦でフィリーズのジョー・ブラントン)
- WSの投手最多打点:4(1970年の第3戦、オリオールズのデーブ・マクナリー)
- WSの投手最多塁打数:7(1919年の第1戦、レッズのダッチ・ルーサー)
例えば、投球内容に関係なく大谷が2本塁打を放つ試合があれば、記録更新となる。大谷には朝飯前だろう。
2.投打両面で史上最高のワールドシリーズの試合をする
これに当てはまる例が2つある。
1つ目が、1926年の第3戦。カージナルスのジェシー・ヘインズがヤンキース戦で本塁打と安打で2打点を挙げ、4-0と完封勝利した試合。
2つ目はより近年で、1988年のドジャース対アスレチックス戦におけるハーシュハイザーの活躍だ。ドジャースタジアムで8三振完封勝利を挙げ、さらに打者としても2本の二塁打を含む3安打を記録した。
参考までに、ベースボールリファレンスが算出する「勝利貢献確率(WPA)」を用いて、大谷のNLCS第4戦とこれら2試合を比較してみよう。
- ヘインズ:0.591
- 大谷:0.350
- ハーシュハイザー:0.244
この指標で見ると、ヘインズのパフォーマンスは大谷を上回っていることになる。ただし、1926年当時と現代では、プレッシャーや競技水準が大きく異なる点は考慮すべきだろう。大谷の試合は、リーグ優勝またはWS出場決定試合での「史上5度目の3本塁打」に加え、6回無失点という内容だった。つまり、正直に言えば大谷の方が上だ。
大谷はWSの舞台で、ヘインズを超えることができるか?あの試合を見た以上は、「無理だね」と笑っていられなくなった。
3.救援登板と試合を変える一打
可能性は高くないが、あり得ないと切り捨てることはできない。
改善されているとはいえ、ドジャースのブルペンは決して厚くなく、一般的に見ても、シリーズが進むにつれて、投手が本来の役割を超えた起用をされることは珍しくない。
実際、ドジャースはポストシーズン前に、大谷を先発ではなく、救援として起用する方がチームにとって良いのではないかと検討した。しかし最終的には、本人の調整リズムを尊重し、先発起用を維持するという現実的な判断をした。
だが、試合終盤にDHを解除して救援登板するというシナリオは、決して想像できないものではない。
(その場合、ドジャースの守備回が残っていれば、大谷は試合に残るために外野を務める必要があるが、本人はこの起用法に前向きな姿勢を示している)
想像してみよう。大谷が敵地で九回表に勝ち越し本塁打、あるいはタイムリーヒットを放った直後にマウンドへ上がり、復活したスプリットで3者連続三振を奪う。
または、大谷がすでにDHとして数本の安打を放った後、九回表に同点の場面で救援登板して失点を防ぎ、その裏に自らサヨナラ打を放つ。そんな展開だってあり得る。
10年前にこのようなことを予想していたら「大丈夫?」と心配されただろう。だが今では「まぁ、確かにな」と同意される。時代は変わったものだ。
4.1試合4本塁打
大谷に限らず、バットを手にする全ての選手に可能性がある。現に、もしWSで1試合4本塁打が生まれる年があるとすれば、今年が最も相応しいかもしれない。2025年は、MLB史上初めて、同一シーズンに3度の1試合4本塁打が記録された年だ。
これまでポストシーズンでは、1試合4本塁打は一度もない(大谷の例の試合は史上13度目の3本塁打試合だった)。実際、4本塁打試合(通算21例)は完全試合(通算24例)よりも珍しい。したがって、大谷がこれを達成すれば、即座に「史上最高のワールドシリーズのパフォーマンス」として語り継がれるだろう。
なんと言っても、1球も投げる必要はない!なんて簡単なんだ!
5.打撃でも貢献しながらノーヒッターまたは完全試合を達成する
大谷のキャリアを通しても完投はわずか1度しかなく、今季はトミー・ジョン手術から復帰シーズンということもあり、ここまでの最長は6回まで。したがって、これはかなり実現が難しいシナリオに思える。
とはいえ、その6イニング登板のうち2試合は今ポストシーズンでのものだ。現在のドジャース救援陣は、信頼できる投手が決して多くないため、大谷が好調で歴史的な展開になりそうなら、デーブ・ロバーツ監督がそのまま投げさせる可能性もある。
もし実際にそんな展開になった場合に備えて、これまでのポストシーズンでノーヒッターを達成した投手たちの打撃成績を振り返ってみよう。
- ドン・ラーセン(1956年WS第5戦の完全試合):2打席、1三振
- ロイ・ハラデイ(2010年NLDS第1戦のノーヒッター):3打数1安打、1打点
- クリスチャン・ハビエル+ヒューストン・アストロズ救援陣(2022年WS第4戦の継投ノーヒッター):該当なし(この時にはすでに大谷以外の投手に打席を与えることはなくなっていた)
打撃面でのハードルはかなり低いが、「ノーヒッターを達成する」というハードルはかなり高い。
だが、不可能だと言い切ることはできない。二刀流は「史上最高の選手」なのだから。最初の一文で、すでにそう書いてあっただろう?
