メッツのボー・ビシェットが29日(日本時間6月30日)、古巣ブルージェイズの本拠地ロジャースセンターに初めて帰還した。試合前、若い頃からともに歩んできた盟友ブラディミール・ゲレーロJr.との絆やトロントで過ごした日々を、何度も言葉を詰まらせ、涙を浮かべながら言葉を紡いだ。
ほんの少し運命が違っていれば、この日はワールドシリーズ制覇を祝うチャンピオンリング授与式の日になっていたかもしれない。スタンドから大歓声を浴びるビシェットに、ゲレーロJr.がリングを手渡し、互いにベンチへ戻る。そんな光景があったかもしれない。
だが現実は違う。
それでも、ビシェットがトロントのファンから温かく迎えられる理由は変わらない。数え切れないほどの思い出を残し、球場を熱狂で満たしてきた功労者の一人だからだ。
試合前、ビジター側のダグアウトで取材に応じたビシェットは、歓迎ムードについて問われると目に涙を浮かべた。
「どんな反応になるのか分からない。でも、自分はここで持っているすべてを出し切った。そのことをファンに分かってもらえていたらうれしい」
その後も何度もグラウンドを見つめて言葉を止め、ゲレーロJr.の名前が出ると再び目を潤ませた。
もしブルージェイズが昨季ワールドシリーズを制していれば、第7戦で大谷翔平から放ったビシェットの3ラン本塁打は、ジョー・カーターの1993年の劇的なサヨナラ本塁打に次ぐ、球団史に残る名場面として語り継がれていたかもしれない。
ブルージェイズのジョン・シュナイダー監督も、あの一打の光景を今でも鮮明に覚えている。
「ボーのことはもちろん覚えているし、ホームで彼を抱きしめようと待っていたブラディ(ゲレーロJr.)の姿も鮮明に覚えている。もしあれがワールドシリーズ第7戦で優勝を決める一打になっていたら、本当に最高の結末だっただろうね」
そして、こう続けた。
「あの歓声は、シアトルとの地区シリーズでジョージ・スプリンガーがホームランを打った時より少し小さかったかもしれない。でも、それに匹敵するほどだった。ホームベースで抱き合うボーとブラディの姿は、今でも頭の中に焼き付いている」
ワールドシリーズ第7戦の敗戦以降、ビシェットとゲレーロJr.はともに苦しいシーズンを送っている。現在は勝率5割に届かないチームでプレーし、OPSもそろって.700を下回るなど、本来の力を発揮できていない。
それでも、2人がトロントにもたらした希望は色あせない。
元メジャーリーガーを父に持つ"二世スター"としてブルージェイズ再建の象徴となり、マイナー時代から指導してきたシュナイダー監督は「まるで人気ボーイズグループを率いているようだった」と当時を振り返る。
ダブルA時代には遠征先のホテルにファンが詰めかけるほどの人気を誇り、10代だった2人は球団の未来を担う存在として大きな期待を集めていた。
ビシェットとゲレーロJr.は、グラウンドの内外で最高のコンビだった。陽気なゲレーロJr.と寡黙なビシェット。対照的な2人は互いを支え合いながら、ブルージェイズ新時代を築いてきた。
試合開始までの約2時間、古巣の関係者や選手たちが次々とビシェットのもとを訪れ、握手や抱擁を交わした。それでも、彼が何より再会を待ち望んでいたのは、若い頃から苦楽をともにしてきたゲレーロJr.だった。
「僕たちはすべてを一緒に経験してきた。でも、一番の目標だけは達成できなかった」
ビシェットはそう話すと、再び言葉を詰まらせた。
「彼の一番苦しい時も見てきたし、彼も僕の苦しい時を知っている。もちろん、お互い最高の瞬間も一緒に過ごしてきた。子どもの頃からチームメートで……」
そこから先を語ることはできなかった。
古巣のダグアウトを見つめながら浮かべた涙が、トロントという街、ブルージェイズという球団、そして盟友ゲレーロJr.への思いが、今も変わらず胸の中にあることを物語っていた。
