フランシスコ・リンドーア(32)は子どもの頃、プエルトリコのほかの小学生と同じように学校で島の歴史を学んだ。教室では、島の先住民と、やがて彼らに取って代わったタイノ族、スペイン人の到来、そしてプエルトリコの近代史について教わった。
そして、ロベルト・クレメンテについても学んだ。
幼い頃から野球に夢中だったリンドーアは、授業でもクレメンテに関する内容に特に強く引かれた。殿堂入りした故クレメンテの現役時代の実績や人道支援活動について知識を深め、できる限り多くの面でクレメンテのような存在になろうと心に決めた。
こうした背景を持つリンドーアは26日(日本時間27日)、ロベルト・クレメンテ賞を受賞した。同賞は慈善活動など球場外での社会貢献をたたえるMLB最高の栄誉で、毎年1人の選手に贈られる。
過去4度候補に選ばれていたリンドーアは、プエルトリコ出身選手として5人目の受賞者。エドガー・マルティネス(63)、カルロス・デルガド(54)、カルロス・ベルトラン(49)、ヤディアー・モリーナ(44)に続いた。
トロピカーナフィールドで行われるワールドシリーズ第3戦前、妻や両親ら家族が見守る中で表彰を受けた。
「この賞は僕自身を表すと同時に、家族を表すものでもある」とリンドーアはスペイン語で話した。
「母、姉、きょうだいたち、そして僕の成功に関わってくれたすべての人を表している」
そうした家庭環境もあり、社会貢献への意識はリンドーアに深く根付いている。現役生活を通じ、両親に電話すると、話題は決まって慈善活動へ移る。両親からは「誰に、どう恩返ししているのか」「地域社会のために何をしているのか」と頻繁に尋ねられる。年末のホリデーシーズンになると、その問いかけはさらに増える。
「僕たちアスリートは、一般の人たちからすごく遠い存在に見られることもある」とリンドーア。
「でも、実際は違う。僕たちは地域社会の中にいる。恩返しもしているし、人を助けてもいる。この受賞をきっかけに、これからも人を助け続けるため、さらに大きな影響力を持てたらうれしい」
クレメンテ賞の受賞を知ったリンドーアは父に電話し、受賞を報告するとともに、「僕たちが持っているものを人のために使う。その小さな種を僕の中に植えてくれた。その結果だよ」と伝えた。
「だから心配しなくていい。僕はちゃんと恩返ししているから」とリンドーアは父に伝えた。
リンドーアは、さまざまな活動を通じて社会への恩返しを続けてきた。主な取り組みは次の通り。
- 2020年以降、母校フロリダ州のモントバード・アカデミーに建設された2階建ての中学校校舎「リンドーア・ホール」の資金援助と整備に100万ドル(約1億5750万円)以上を寄付した。校舎には最新鋭の科学・技術研究室や運動施設が備えられている。さらに、経済的な理由で同校へ通うことが難しい生徒に機会を提供するため、「フランシスコ・リンドーア奨学基金」も設立した。
- 2017年のハリケーン・マリア、2022年のハリケーン・フィオナの被災後には、災害復旧を資金面で支援したほか、故郷カグアスのスポーツ施設を修復し、少年野球教室を開催。複数の団体と協力し、復興や環境保全活動にも取り組んだ。
- 今年、リンドーアは「Lindor’s Leaders」を立ち上げた。ベイサイド高校のスポーツ医学プログラムに所属する生徒を対象に、シーズンを通じて成長を支援するプログラムで、メンタルヘルス、コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップを柱としている。リンドーア自身が生徒を指導し、地域社会を担うリーダーになるための自信とスキルを身につけられるよう後押しした。
- 最近では、身体障害のある子どもを育てる家族を支援する非営利団体「Seen」と協力し、子どもたちを球場へ招待して一日を過ごす機会を提供した。さらにニューバランスとも連携し、毎年数百人の子どもたちに学用品などを届けている。
「この賞を最高の栄誉と呼ぶ理由は、フィールド上での卓越した実績と地域社会への貢献、その両方をたたえる特別な賞だからです」とMLBのロブ・マンフレッド・コミッショナー(68)は、リンドーアに直接語りかけた。
「フィールド内外で築いてきた素晴らしいキャリアを、心から祝福したい。受賞にふさわしいです」
MLBは2022年以降、クレメンテ賞受賞者に背番号21のパッチを贈っており、受賞者は現役を終えるまで帽子の後部に着用できる。ヘルメットにも背番号21のステッカーを付けられる。
同年夏、クレメンテ・デーの式典で過去の受賞者14人がシティフィールドに集まった。リンドーアはその場でベルトラン、デルガドら歴代受賞者や、クレメンテの3人の子ども、ロベルトJr.、ルイス、エンリケと交流する機会を得た。
当時、初めてクレメンテ賞候補に選ばれる1年前だったリンドーアは、その受賞者たちの輪を目にし、「いつか自分も、みんなと同じ仲間に入れたらいいな」と思ったという。
今週から、リンドーアもその一員となる。
「少し現実とは思えない感じだよ」とリンドーア。
「ある意味、野球を超えた賞だと思う。僕たちはエンターテインメントの世界にいて、人々に笑顔や喜びを届ける役割がある。でも、それを球場の外にも広げていけることは、僕にとってさらに素晴らしい。だから、これからもずっと続けていきたい」
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