先発投手の争奪戦は、常に熾烈だ。今オフも例外ではないが、今年のフリーエージェント(FA)市場に出ている先発投手の顔ぶれはとりわけ興味深い。圧倒的な存在感を放つエースがいるわけではない。その代わり、来季に(球団にもよるが)ローテーションの上位を任せられる可能性のある投手が4〜6人ほどいる。
この投手たちの間には大きな差はなく、それぞれ強みと弱みが大きく異なる場合もある。球団ごとの評価基準によって、優先順位は大きく変わり得る。これは、今回のFA先発投手パワーランキングに投票したMLB.comの15人の記者にも当てはまっており、投票内容も大きく分かれた。
以下は、すでに契約済み、または2026年のQOを受諾した投手を除いたうえでのランキングだ。
1位:フランバー・バルデス
2020年にアストロズのローテーションに定着して以来、バルデスほど毎年安定した働きを見せた投手はほとんどいない。
左腕は6年間すべてでERA+(リーグ平均を100とし、球場差も補正した投手指標。100が平均で、数字が高いほど優秀)が114〜138の間に収まり、過去4シーズンはいずれも175イニング以上、ファングラフスのWAR(勝利貢献指数)は3.5以上を記録している。
2020年以降でみれば、バルデスはイニング数(973)でMLB5位、fWAR(20.3)では6位タイ。球速で勝負し、三振を奪うタイプではないが、ゴロを打たせる能力は、堅実な内野守備を持つ球団、あるいは打者有利の球場を持つ球団にとって、特に魅力的である。
2位:ディラン・シース
2020年以降のfWARでバルデスと並んで6位につけているが、安定感のあるバルデスと比べると、シースは遥かに不安定な投手という印象がある。
この4年間、サイ・ヤング賞投票でトップ5入りした年(2022年と24年)と、指標上はもっと良かったものの防御率が4.50前後にとどまった年(2023年と25年)が交互に訪れている投手をどう評価するかが、各球団の判断を左右する。
シースは空振りを奪い三振を積み上げる一方で、四球が多く、登板が短くなる傾向もある。それでも、その潜在能力は多くの球団をひきつけるに十分である。
3位:レンジャー・スアレス
速球の球速(2025年は下位7%)、空振り率(同24%)、奪三振率(同55%)の指標を重視するなら、スアレスは優先候補にはならない。また、多くのイニングを投げるタイプでもなく、2022年以降のシーズン平均投球回は147回である。
しかし、失点を抑える術を持つ投手を求めるなら、スアレスはその条件に合致する。
フィリーズでの通算防御率は3.38で、先発専任となった過去4シーズンでも3.59を記録。6種類の球種を操り、四球を抑え、打球の質も低く抑えることができる。実際、今季規定投球回に達したMLB先発投手で、スアレスの被ハードヒット率(打球速度95マイル=153キロ以上)31.1%は堂々の1位だ。
4位:今井達也
NPBからポスティングされ、来季MLB入りを目指す日本人選手4人のうちの1人。今井の場合、交渉期限は米国東部時間1月2日午後5時(日本時間3日午前7時)までとなっている。埼玉西武ライオンズで大成功を収めた27歳の右腕は、MLB挑戦そのものだけでなく、連覇中のドジャースにいる日本人スター選手たちに挑むことにも意欲を見せている。
身長5フィート11(180センチ)、体重154ポンド(70キロ)の今井は、MLB打者相手にも自身の投球が通用することを証明しなくてはならないが、先発投手を必要とする球団からは今オフの先発のトップ5のFAとして評価されている。そして、今回の投票パネルもこれに同意した。
5位:マイケル・キング
キングは評価が難しい投手だ。通算64先発で防御率3.35、2024年以降は防御率3.10(ERA+134、FIP3.65)と優れた成績を残している。これは非常に魅力的な数字だ。一方で、2025年はケガにより15先発、73回1/3にとどまり、30歳のキャリアでMLBで100イニング以上投げたのは2024年のみである。(キングは、ファン・ソトのトレードでサンディエゴへ移籍する前、ヤンキースで5年間リリーフと先発を行き来していた)
また、キングの指標の多くは2024年から25年にかけて悪化しており、スタットキャストの予想防御率も3.56から4.31に落ち込んだ。依然として魅力的な成績ではあるが、このリストの上位投手たちと比べると、リスクが高い。
6位:ザック・ギャレン
FA市場においてはタイミングがすべてであり、ギャレンが2022年、23年、または24年シーズン後にFAとなっていれば、状況は今オフより、はるかに良かっただろう。しかし、30歳の右腕にとって不運なことに、キャリア最悪の防御率4.83、FIP4.50、さらにその他先進指標にも懸念を残した状態でFAを迎えることとなった。
とはいえ明るい材料として、ギャレンはここ4年で3度目となる30先発、180イニング以上を達成しており、2022〜23年に2年連続でサイ・ヤング賞トップ5入りした実績もまだ記憶に新しい。環境の変化で調子を取り戻し、トップクラスの投球を取り戻すきっかけとなる可能性もある。
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7位:メリル・ケリー
過去7シーズンの大半、今年のトレード期限でレンジャーズへ移籍するまで、ケリーはギャレンとともにダイヤモンドバックスの強力な先発ローテ1、2番手を形成していた。KBO(韓国プロ野球)で成功した後、30歳でMLBデビューしたケリーは、現在37歳で長期契約を求める立場にはないとみられる。
それでも、今季は32先発で防御率3.52を記録しており、直近4年で30先発&防御率3点台前半以下を3度達成している。フォーシームとシンカーの平均球速は約92マイル(約148キロ)に過ぎないが、チェンジアップを多用するスタイルへ移行。2025年には最も投球割合の高い球種となり、約50%のチェイス率(ボールゾーンをスイングさせる割合)を記録した。
8位:クリス・バシット
バシットもケリーと似たケースで、数年前のピークからはやや落ちたものの、170回1/3で防御率3.96という堅実さと耐久性を示した、37歳となるベテラン右腕だ。もう一つの共通点として、バシットの速球は平均を大きく下回っているが、2025年には8種類の球種を投げ分け、そのうち17%以上投げたのはシンカーのみと、的を絞らせない投球が光り、まさに「技巧派」の模範とも呼べる。
開幕前に43歳を迎える大ベテランの前では、ケリーやバシットでさえ若く見える。昨季は、ついに力尽きたかのように見えた時期もあった。しかし、オールスター前の防御率4.70から一転、後半戦では2.99まで立て直した。
8〜9月の予測指標(被xwOBA .286=打球速度・角度などに基づき、打者が本来得るべき打撃結果を推定する指標)は規定投球回数に到達した先発投手でトップ20に入り、ローガン・ウェブ、マックス・フリード、ローガン・ギルバートらと肩を並べた。つまり、バーランダーにはまだまだ力が残っている。
10位:タイラー・マーレ
直近90試合(89先発)で防御率3.61、ERA+121、FIP3.77を記録しており、2025年に限れば防御率2.18、ERA+168、FIP3.37を残した。一見するとFAトップクラスの投手だが、これら89先発は6シーズンに分散しており、2025年は右肩疲労で約3カ月離脱したためわずか16先発にとどまった。これこそがマーレの評価を示しており、「健康なときは優秀だが、近年その状態が長続きしていない」という点に尽きる。
次点:マックス・シャーザー、ザック・エフリン、コディ・ポンス、ルーカス・ジオリト、ニック・マルティネス、ザック・リテル、高橋光成
