【後編】「マーフ・ボール」の哲学 マーフィー監督の指導法&管理法

October 27th, 2026

「マーフ・ボール」の哲学 パット・マーフィー監督が選手に求める「考える野球」の前編ではルーキー選手がすぐにメジャーに適応し、活躍できる理由、打撃アプローチなどを紹介した。後編ではマーフィ監督の指導法や試合マネジメントなどについて紹介したい。

「10打数10安打でもバント」——状況に応じて役割を変える

右翼手のサル・フリーリックは、ブルワーズの強さを支える要素として、選手を見極めるスカウト陣の存在を挙げる。

「僕たちは大物FAをたくさん獲得するような球団じゃない。だからこそドラフトやトレードで的確に補強する必要がある。例えば投手のロバート・ガッサーもパドレスのマイナーから獲得した選手。スカウト陣は単に能力が高いだけでなく、チームの姿勢になじみ、クラブハウスにフィットする人間性を持っているかを事前に徹底して調べている」

能力だけでなく、チームの考え方に合うかどうかも見極める。そうして集まった選手たちが共有するのが、マーフィー監督の求める野球だ。

フリーリックは、ブルワーズの野球を自身が経験してきた大学野球になぞらえる。ノートルダム大やアリゾナ州立大で長年指揮を執ったマーフィー監督は、プロの現場でも状況に応じた戦術を重視し、選手一人ひとりに具体的な役割を求める。

「ブルワーズの野球は大学野球にとても近い。アメリカの大学野球では、監督やコーチが試合を細かくコントロールする。投球ごとに、見送るのか、打つのか、バントをするのか、指示が出る。だから、大学生は監督を『コーチ』と呼ぶ」と話し、「プロでは『コーチ』ではなく『マネジャー』と呼ばれる。指導するだけでなく、試合を動かし、管理する役割が大きいからだ。マーフィー監督は大学野球出身で、そこで大きな成功を収めた。そのスタイルを今もここで実践している。試合を管理するだけでなく、選手を直接指導する面も強い監督だと思う。もちろん、両方を担っていますが、あれほど選手に細かく指導する監督は多くない」

その細かな指導は、選手が状況に応じて最適なプレーを選ぶ意識にもつながっている。

「監督は求めるプレーを明確に提示してくれる。たとえ10打数10安打で絶好調でも、4番打者でも、必要な場面なら躊躇なくバントや盗塁のサインが出る。その状況で自分が何をすべきかを瞬時に考えること自体が、僕たちの野球なんだ」

ナ・リーグ優勝決定シリーズのドジャース戦で、ブライス・トゥラングが本塁打の後の打席でバントをしたことに驚きもあったが、フリーリックの言葉がそれを実証している。

打者として好調でも場面への適応が求められる。走者を進めるべき場面ならバントを選び、次の塁を狙える状況なら走塁でプレッシャーをかける。自分の打撃成績よりも、目の前の局面でチームに必要なプレーを優先する。

もちろん、サインはすべての投球に対して出されるわけではない。要所要所でコーチ陣を通じて伝えられ、時には「イニング先頭打者は初球を見送れ」といった細かなゲームプランも共有されるという。

選手自身が状況を理解し、何を求められているのかを判断する。その積み重ねが、ブルワーズの攻撃を形づくっている。

控え選手にも求められる準備

「野手13人全員で一つのグループとして戦っている」

そう語るのは、今季レッドソックスから移籍したデビッド・ハミルトンだ。スタメンだけでなく、控え選手も含めてチーム全員が役割を担うという考え方は、日々の準備にも表れている。

「誰がスタメンかは重要じゃない。試合のどの局面でも出番が回ってくる可能性があるからこそ、全員が常に準備を怠らず、ベンチから互いを声援で支え合っている」

ハミルトン自身も、春季キャンプ初日にマーフィー監督から「今年はバントをやってもらうぞ」と直接告げられ、猛練習した。バントを磨き、出塁し、俊足を生かしたプレーをしてほしい、という意図があった。

「練習を重ねて少しはマシになったけど、きょうも2度失敗してしまった。それでもチームの勝利に必要なピースなら、マスターするまで向き合い続けるだけ。以前は、どこか自分本位な打席があった。でも、このチームで生き残るには『いい打席』を作らなきゃいけない。たとえ2ストライクに追い込まれても、簡単に諦めず、ファウルで粘って粘って相手を疲弊させる。それがブルワーズの野球なんだ」

「マーフ・ボール」は、状況に応じて自分の役割を理解し、基本を徹底し、仲間のために次のプレーをつなぐ。その姿勢が選手たちに共有されていることこそ、ブルワーズ野球の特徴だ。

泥臭く、我慢強く、そして自分たちの野球を信じる。一つずつ局面を動かし、個人の力だけに頼るのではなく、全員で勝利を手繰り寄せる。それが、パット・マーフィー監督の追求する「マーフ・ボール」だ。