パイレーツ愛と金メダルへの思い スキーンズが誓う2つの忠誠

March 1st, 2026

アストロズ2-5パイレーツ】フロリダ州ブラデントン/CACTIパーク、2月28日(日本時間3月1日)

LECOMパークからウェストパームビーチまでは車で長時間を要する。スプリングトレーニング中とはいえ、州を横断してバスで約3時間半。負担の大きいこの遠征を、多くの選手が敬遠するのも無理はない。実際、パイレーツは2006年以降、チームとしてこの移動を避けてきた。

ましてや、ポール・スキーンズはその遠征に参加する必要はなかった。この日は登板予定もなく、しかも間もなくキャンプ地を離れるタイミングだった。それでも右腕は、その遠征に加わった。

それでも2月28日(日本時間3月1日)、スキーンズはダグアウトに姿を見せた。雨天のため短縮となったアストロズ戦を、チームメートとともに最後まで見届け、ベンチから声を張り上げた。

 翌3月1日、ワールドベースボールクラシック(WBC)米国代表に合流するためチームを離れた右腕にとって、祖国のユニフォームを身にまとうことは特別な意味を持つ。もし金メダルを手にすることができれば、その勲章はキャリアの中でもひときわ重みを放つはずだ。

それでも、新チームが少しずつかみ合い始めている手応えを感じた直後だけに、スプリングトレーニングの真っただ中でパイレーツを離れる決断は簡単ではなかった。

 「正直、複雑な気持ちだ。本音を言えば離れたくない。WBCじゃなければ、出発するのは憂うつだったと思う」とスキーンズは胸の内を明かした。

 「もちろん大会は楽しみだよ。でも、ここでは何か特別なものを築こうとしている。その真っ最中に2週間離れるのは、やっぱり惜しいよね」

スター軍団・チームUSAを率いるのはマーク・デローサ監督。2023年大会では米国を銀メダルへ導いた指揮官だ。今大会も、メジャー球界を象徴する顔ぶれがずらりと並ぶ。ドジャースのレジェンド、クレイトン・カーショウをはじめ、ア・リーグのサイ・ヤング賞右腕タリック・スクーバル、同リーグMVPで主将を務めるアーロン・ジャッジ、MVP次点のカル・ローリー、ボビー・ウィットJr.、カイル・シュワーバー、アレックス・ブレグマン、ブライス・ハーパー。

まさにオールスター級の陣容だ。

その中心の一角を担うのがスキーンズである。エース右腕がいち早く出場の意思を示したことが、他の投手陣の参加を後押ししたとも言われる。若き大黒柱の決断は、チームUSA結成の流れを加速させる大きな一歩となった。

パイレーツのエースは、アメリカが順当に勝ち進めば、エキシビション1試合と本大会2試合に先発する予定だ。米国代表は3日(対ジャイアンツ、日本時間4日)と4日(対ロッキーズ、日本時間5日)にエキシビションマッチを行い、6日午後8時(日本時間7日午前10時)にブラジルとの1次ラウンド初戦を迎える。

「一番大事なのは金メダル。どの試合で投げるかは関係ない。ただ金メダルを取りたい」とスキーンズは語った。

向上心に疑いの余地はない。スキーンズはメジャーデビューからわずか2年でナ・リーグ新人王とサイ・ヤング賞を獲得。防御率1.96、WHIP0.95、bWAR13.5という圧倒的な数字を残し、すでに球界を代表する存在へと駆け上がった。

胸に「USA」を刻むのも、今回が初めてではない。2014年、メキシコ・マサトランで行われたCOPABEパンアメリカン選手権に12歳以下代表として出場し、銀メダルを獲得。その後、2021年と22年には大学代表でもプレーし、21年にはオランダ戦で4回無失点の好投を披露した。

Paul Skenes was a catcher on the 12U National Team in 2014. (Credit: USA Baseball)

これまで数々の実績を積み上げてきたスキーンズだが、まだ金メダルは手にしていない。そのため、いまはパイレーツに残りたいという思いを抱えながらも、アリゾナへ向かい、チームに合流する。

オフシーズンに補強を進め、課題を補ったチームのクラブハウスには、今まさに何かを成し遂げようという空気感と確かな手応えが漂っている。登板予定がなかったにもかかわらず、今週末に州を横断してチームに帯同したのは、その一体感を共有しておきたかったからだ。

離れる直前だからこそ、ベンチに“いる”ことを選んだ。

その胸中を、ドン・ケリー監督も理解している。

「ポールが国を代表できるのは本当にうれしいことだ」と指揮官は語る。

「彼にとって大きな意味があるし、パイレーツファンや我々にとっても誇らしい。仕上がりは通常より少し早くなるかもしれないが、大きな違いはない。ポールは常に万全の準備をする男だ。あらゆる要素を考え抜いている。シーズン最初の登板には、最高の状態で臨むはずだ」

最近の五輪におけるアメリカ勢の活躍について語るスキーンズは、終始真剣そのものだった。

「僕たちはアメリカだ。他国に対して優位性を示さなければならない。勝つ。それが僕たちUSAがやることだ」と彼は言った。

2026年、母国のために全力で勝利を掴む覚悟はできている。しかし国歌やブブゼラの響きに包まれる華々しい舞台で戦う前に、フロリダを横断する遠征があった。一見すれば些細な出来事だ。

だが、スキーンズにとってはそうではなかった。

金メダルを追う投手にとって、本当に名残惜しかったのはスプリングトレーニングの登板機会ではない。自らが「ここに残りたい」と思える何かを築きつつあるクラブハウスを離れることだった。