今オフの救援投手と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは、速球でねじ伏せセーブを積み上げるタイプだろう。エドウィン・ディアスやロベルト・スアレスのように実績豊富な守護神、あるいはライアン・ヘルズリーやデビン・ウィリアムズのように、身体能力の高さから「調整次第でさらに伸びしろがある」と期待される存在が王道だ。
だが、王道だけに価値があるわけではない。むしろ、個性が際立つ投手こそ、思わぬ強みを生み出すことがある。投手の仕事は、速球を投げることではなく、アウトを取ることだ。奇妙に見えるスタイルでも、それが結果につながるなら立派な武器になる。
その代表格が、タイラー・ロジャースだ。地面すれすれから放たれる特異なフォーム、そしてメジャーで最も遅い平均約134キロの速球。だが、彼はある指標において今オフのFA救援投手の中で最も高い価値を持つ投手の一人として評価されている。
ロジャースの評価を押し上げているのは、Statcastのピッチング・ラン・バリューだ。これは全ての投球を対象に「どれだけ失点を防いだか」を測る指標で、ロジャースは今オフFA救援投手で1位、全体でもアロルディス・チャップマンに次ぐ2位につけている。
もちろん、彼がMLBを代表する救援投手と見なされているわけではない。契約規模はディアスらのクラスより小さくなる。それでも彼の独特なフォームは結果に直結しており、1球あたりもしくは総合的な価値で、ともにディアスを上回る価値を生み出している。7年間の防御率2.76、過去5年のラン・バリュー5位タイという実績も、この評価を裏付けている。
メッツがわずか2カ月の契約のために、ドリュー・ギルバート、ブレイド・ティッドウェル、ホセ・ブットーという有望株3人とトレードしたのは、こういった指標を評価したからだ。メッツ加入後に記録上は本塁打を1本許したものの、実際にフェンスを越えた打球はゼロだった。
FA市場を確認すると、ロジャースは三振や球速ではなく、40イニング以上投げた投手の中で多くの主要指標で上位に入っていた。四球率はわずか2.3%で全体2位。ダメージも四球も与えず、ゴロを量産するのが特徴だ。
- 予測防御率(xERA):2.67(3位)
- ゴロ率:61.6%(1位)
- バレル率:2.1%(1位)
- 奇妙さ:測定不能
FA市場を確認すると、ロジャースは三振や球速ではなく、40イニング以上投げた投手の中で多くの主要指標で上位に入っていた。四球率はわずか2.3%で全体2位。ダメージも四球も与えず、ゴロを量産するのが特徴だ。
最大の武器は、地面から約36センチという極端に低いリリースポイントで、現代の打者が見慣れていない角度から球が飛んでくる。そして、平均約133キロという遅い速球でありながら、打者のスイングを「遅らせる」という独特の効果を生み出している。
ではなぜ、高校生レベル、あるいはそれ以下の球速で、メジャーの打者が振り遅れるのか。その答えは、ロジャースの投球が常識とかけ離れているからだ。
「彼は本当に異質だよ」と、ジャイアンツの捕手パトリック・ベイリーは2023年にMLB.comのデービッド・アドラーへ語っていた。
「彼の速球は沈み、変化球は上に変化する。打者や審判の反応を見ると面白いよ。自分は打つ側や判定する側じゃなくて、捕る側でよかったと思うよ」
現代野球では、救援投手の登板を短くしたり、Trajekt(トラジェクト)マシンで投球フォームを再現したりと、徹底した予備研究が当たり前になっている。しかし今年の夏の時点で、このマシンはロジャースのフォームを再現できなかった。それほど彼の投球は『前例がない』ということだ。
その独特さは、ホセ・ラミレスへの初球スライダーにも表れている。ラミレスは自分に向かってくると錯覚したようにのけぞったが、球は最終的にストライクゾーン真ん中へ入ってきた。見慣れない角度と軌道こそが、遅い球でも振り遅れを生む最大の理由である。
「遅れたスイング」は、今後数カ月以内にスタットキャストによってより詳細に定量化される予定だが、今回は簡易的にそれを紹介する。投手の球種ごとに、打者のバットがボールに最も遅れて接近した度合いを測定したランキングを見ると、予想通りクリス・セールやマックス・フリードのフォーシームや、ヨアン・デュランやセス・ハルヴォーセンのような速球自慢の投手たちが並ぶ。
しかし、そこに匹敵するのが、ロジャースの時速83.5マイル(約134キロ)の直球だ。どうしてそんなことが可能なのか。例として、昨年4月のエンゼルス内野手ルイス・レンヒーフォとの対戦を見てみよう。
初球は外角へのスライダーでボール。次の球はど真ん中のシンカーで、球速は82.9マイル(約133キロ)。レンヒーフォのスイングは、ロジャースが今季奪った空振りの中で最大の”振り遅れ”で、タリク・スクーバルが奪ったどの空振りよりも、スイングが遅れていた。不調だったとはいえ、レンヒーフォは前年に打率.300、出塁率.347、長打率.417を記録したメジャー7年目の選手だ。
”遅さ”で言えば、ロジャースの右に出るものはいない。実際、今季のMLBで投げられた82.9マイル以下のフォーシーム/シンカーのうち、92%以上がロジャースによって記録されている。さらに、このわずか2球種だけで、キャリアを通して左打者と右打者に対してほぼ同じ成績を残している。
懸念があるとすれば、12月で35歳になることだ。確かに、遅い球が特徴だが、下げられる限界はある。実際、メッツ在籍期間では比較的低かった三振率がさらに低下した。しかし、これらは普通の投手に対する懸念であって、ロジャースはその“普通”から大きく外れている。また、このタイプの投手に大型の長期契約が提示されることはそもそも少ない。
ロジャースの投球フォームは誰が見ても異質であり、メジャー最遅球で成功してきた理由でもある。単なる奇策ではなく、アウトを取るための戦術であり、実際に大量のアウトを生んできた。今冬、彼を獲得するチームは、その価値を身をもって知ることになるだろう。
