20年前、史上初となるワールドベースボールクラシック(WBC)が開催された。ケン・グリフィーJr.、イチロー、アンドリュー・ジョーンズ、カルロス・ベルトランといった名だたるレジェンドたちが母国を代表してグラウンドに立ち、野球という競技は大きく姿を変えた。
大会は今年で第6回を迎え、野球の国際的な広がりはさらに加速している。いまやスター選手たちは、限られた内定枠を巡って自己PRに奔走する就活生のように代表入りをアピールし、監督やGMはMLBのレジェンドたちに対しても「申し訳ないが、もう枠がない」と伝えなければならない状況だ。
2026年ワールドベースボールクラシック
今大会は、WBC史上初めて、直近のMVPおよびサイ・ヤング賞受賞者4人全員が参加する大会となった。アメリカ代表にはポール・スキーンズ、タリク・スクーバル、アーロン・ジャッジが名を連ね、前回王者・日本には大谷翔平が戻ってくる。
全20チームのWBCロースターには、過去最多となる78人のMLBオールスター経験者が名を連ねている。そのうち36人は、昨季のア・リーグもしくはナ・リーグのオールスターに選出されていた。MLBの40人枠に登録されている選手は190人、MLB球団と契約している選手は計306人にのぼる。
なかでもアメリカ、日本、ドミニカ共和国のロースターは群を抜いて豪華だ。アメリカ代表は、60本塁打を放ったカル・ローリーとオールスター3度選出、ワールドシリーズ制覇3度のウィル・スミスが捕手の座を争う。直近2シーズン連続でオールスター、ゴールドグラブ、シルバースラッガーを受賞しているボビー・ウィットJr.も再び代表入りした。アメリカ代表には計22人のMLBオールスター経験者が名を連ねており、これは今大会最多となっている。
オールスター選手を16人擁するドミニカ共和国も、非常に強力だ。フアン・ソト、マニー・マチャド、フェルナンド・タティスJr.、ブラディミール・ゲレーロJr.、そしてジュニア・カミネロが並ぶ打線は、WBC史上でも屈指の破壊力を誇る。サンディ・アルカンタラ、クリストファー・サンチェス、ブライアン・ベヨを中心とした投手陣も充実しており、2013年大会の無敗優勝の再現を国全体が期待している。
侍ジャパンは、大谷翔平だけのチームではない。ドジャースでの圧巻のポストシーズンを終えたばかりの山本由伸が代表に復帰し、さらにMLBと新たに契約した村上宗隆、岡本和真も名を連ねる。加えて注目したいのが、沢村賞を受賞した伊藤大海、そして2025年に40本塁打を放ってセ・リーグMVPに輝いた佐藤輝明といったNPBを代表するスターたちだ。
どの国のロースターを見ても、必ずタレントが揃っている。ベネズエラはサルバドール・ペレスが主将を務め、ロナルド・アクーニャJr.やジャクソン・チューリオが脇を固める。メキシコは捕手アレハンドロ・カーク、守護神アンドレス・ムニョス、そしてムードメーカーの外野手ランディ・アロザレーナを中心に、2023年大会の準決勝進出を上回る結果を狙う。キューバは、NPBパ・リーグMVPに輝いたリバン・モイネロをローテーションの柱に据え、WBC通算本塁打王のアルフレド・デスパイネも39歳にして再び参戦する。さらに、44歳となった元ホワイトソックス内野手のアレクセイ・ラミレスも、2006年以来初めて代表ユニフォームに袖を通す。
また、今大会にはMLBパイプラインのトップ100プロスペクトが7人出場しており、大会終了時には一躍世界的な注目を集める存在になる可能性もある。パイプライン全体6位のノーラン・マクレーンはアメリカ代表メンバーの一員となり、2024年ドラフト全体1位指名のトラビス・バザーナは、かつて自身のスマートフォンに描いていた「2026年WBCオーストラリア代表の1番打者」という夢を、いま現実のものにしようとしている。カブス傘下のジョナサン・ロングは自身のルーツに敬意を表し、チャイニーズ・タイペイ代表として出場。2024年プレミア12で日本を破った“伏兵”が再びの番狂わせを狙う。
今大会は、親子二代にわたるつながりも数多く見られる。韓国代表には、かつて同国のスターだった李鍾範(イ・ジョンボム)を父に持つ李政厚が再び名を連ねる。ブラジルには、ダンテ・ビシェットJr.、マニー・ラミレスの息子であるルーカス・ラミレス、そしてホセ・コントレラスの息子で、17歳のジョセフ・コントレラスという「メジャーリーガーの息子」が3人いる。また、オランダ代表ではアンドリュー・ジョーンズが監督として、自身の息子ドリュー・ジョーンズと共に戦う・
他にもこの大会の特別な魅力の一つは、プロ野球選手ではない“新たなスター”が生まれる点だ。チェコ代表の消防士兼投手マルティン・シュナイダーは、負傷から復帰し、再び代表に戻ってきた。電気技師として働きながら大谷翔平から三振を奪い、一躍名を知られたチームメートのオンジェイ・サトリアのようにこの大会での飛躍を狙っている。
オーストラリア代表主将のティム・ケネリーも消防士で、今冬オーストラリアン・ベースボールリーグを引退したばかり。今回が最後の大会になる可能性が高い。ブラジル代表の遊撃手ヴィトール・イトウはNPB・阪神タイガースの通訳として働いている。
これまでも野球は決してアメリカだけのものではなかったが、2026年大会ほどそれが証明される舞台はないだろう。地球儀を回せば、どこかにWBCのスターがいる。人口わずか3万4000人のサンマリノにはパイレーツ傘下のアレッサンドロ・エルコラーニがいる。アルバにはMLBオールスター4度選出のザンダー・ボガーツがいる。韓国には、ライリー・オブライエンやジャマイ・ジョーンズのように、自らのルーツに敬意を表して代表に加わる選手たちがいる。野球は紛れもなくグローバルなスポーツなのだ。
