【ドジャース2-6ブルージェイズ】ロサンゼルス/ドジャースタジアム、10月28日(日本時間29日)
負けること自体は珍しくない。しかし、6時間39分にも及ぶ試合を戦った末に敗れるのは、まったく別のダメージを残す。あらゆる「もしも」が頭をよぎる、精神的に消耗する敗戦だ。
ブルージェイズは、そのような敗戦をまさにワールドシリーズ第3戦で味わった。選手たちは気丈に振る舞っていたが、チームの雰囲気を根底から崩してもおかしくない一戦だった。
翌日の第4戦、ブルージェイズは今季何度も見せてきた「逆転力」を見事に発揮した。敵地ドジャースタジアムでの6-2の完勝でシリーズを2勝2敗のタイに戻し、精神的にも肉体的にも復活を遂げたチームの強さを証明した。
この勝利により、ブルージェイズは29日の第5戦の結果に関係なく、第6戦を本拠地ロジャースセンターで戦えることが決まった。そして、もう一つの確信も得た。
「俺たちは“普通じゃない男たち”のチームなんだ。普通のチームなら今日の試合に勝てなかったと思う。でも俺たちは違う。俺たちは今、野球界で一番強いチームだと思っている」と三塁手アーニー・クレメントは語った。
相手は優勝候補筆頭の王者ドジャース。しかし、ブルージェイズにとって、多くのチャンスを逃した第3戦は、取りこぼしのようにすら思えた。それほどに痛い敗戦だった。
しかし第4戦では、ブラディミール・ゲレーロJr.の逆転2ラン、シェーン・ビーバーの安定した投球、七回の4得点、そして強力な救援陣と、ア・リーグ王者らしい総合力で見事に立て直した。
「これは素晴らしいシリーズになると分かっていた。ブルージェイズは才能にあふれ、粘り強く、そして戦う心を持っている」とドジャースのデーブ・ロバーツ監督も称える。
日付が変わり、第3戦が終わったあと、ジョン・シュナイダー監督は報道陣にこう釘を刺したーー「ドジャースが勝ったのはワールドシリーズじゃない。ただの1試合だ」と。
その言葉は正しかった。大谷翔平というラスボスにも屈さず、お得意の逆転劇で勝利。今季レギュラーシーズンで49度の逆転勝利をあげた(うち43試合は先制されていた)チームの「逆転力」は伊達じゃない。
実は、今シリーズでもここまで全試合で先制を許しており、この日も二回にキケ・ヘルナンデスの犠牲フライで1点を奪われた。
なお、WS最初の4試合で全て先制したチームは、2004年のレッドソックス、2012年のジャイアンツ、そして昨年のドジャースといずれも最終的に優勝している。
しかし、彼らが対戦したのは、このブルージェイズではない。
三回、1死からネイサン・ルークスが大谷からセンター前へ弾き返し、打席にはゲレーロJr.が入った。チームの顔であるゲレーロはこの10月に大活躍してきたが、WSではまだ長打がなかった。だが、大谷の2-1からのスイーパーが高めに甘く入ると、迷いなく振り抜いた打球は左中間スタンドへ。今ポストシーズン7本目の本塁打で、球団のポストシーズン通算最多記録を更新した。
「大谷のことはとても尊敬している。僕と彼は、このシリーズの主役のように見られている。でもフィールドに立てばライバルだ。彼から本塁打を打ててよかった」とゲレーロは語った。
これで、今ポストシーズン4本目の逆転アーチ。単一ポストシーズンでの球団最多記録となった。
「あの一打は本当に大きかった」とシュナイダー監督も語る。
「スイーパーは本来フライを打たせるための球だと思う。だが、あのスイングはまさに一流。前夜は大谷への賞賛ばかりだったが、今日はその彼からあの一撃を放った。チーム全体に火をつける一打だった」
トレードで加入したブルージェイズの先発シェーン・ビーバーは、先制を許すも、リードをもらってからの投球は見事だった。5回1/3を投げて4安打、3四球、1失点、3三振と試合をしっかり作った。
六回、1死一、二塁のピンチでシュナイダー監督はビーバーを降板させ、ルーキー左腕メイソン・フルハーティをマウンドに送った。フルハーティは、初球でマックス・マンシーをライトフライに打ち取り、続くトミー・エドマンをわずか3球で三振に斬って取り、リードを守り抜いた。
一方の大谷は、前夜に歴史的な攻撃的パフォーマンスを見せ、試合後に点滴を受けるほど疲労していたにもかかわらず、この日も七回途中までマウンドに立ち続けた。二刀流の驚異的なスタミナを改めて見せつけた。
しかし、その七回、ついに疲れの色が見え始めた。先頭のドールトン・バーショにライト前ヒットを許すと、続くアーニー・クレメントに左翼フェンス直撃の二塁打を浴び、無死二、三塁のピンチを背負い、降板となった。
ロバーツ監督が最初にマウンドに送ったのはアンソニー・バンダ。しかし、アンドレス・ヒメネスがフルカウントから、レフト前タイムリーを放ってバーショが生還。さらにクレメントもタイ・フランスの内野ゴロの間にホームインした。続くブレイク・トライネンもボー・ビシェットとアディソン・バージャーに連続タイムリーを許し、スコアは6-1に。ブルージェイズは一気に試合を決定づけた。
本来は先発投手のクリス・バシットは七、八回をきっちり抑え、リードをキープ。九回にはルイス・バーランドがマウンドに上がったが、ドジャースの反撃を1点に抑えて試合を締めた。
「今日は相手に対応する術がなかった」とロバーツ監督は淡々と語った。
前夜のブルージェイズは、攻撃のチャンスを逃し続けていた。残塁数はワールドシリーズ記録となる19。あの敗戦は、まるで2試合分負けたかのような重さだった。
しかし、「カムバック・キッズ」たちは、そう呼ばれるゆえんを示した。
「ここまで来ると、正直少し気持ちが切れそうになる。でも、俺たちは再びエネルギーを見つけた。ドジャースタジアムでのワールドシリーズでやる気を出すのなんて、そう難しいことじゃない。自然と力が湧いてきたんだ」とクレメントは語る。
睡眠不足にもかかわらず、チームは再び活力に満ちていた。この火は、まだまだ消えそうにない。
