野球界のスモールマーケットで球団を運営するには、それなりの覚悟がいる。ただ、その醍醐味も大きい。時には任天堂が登場することだってある。
2026年のワールドシリーズでは、長年の付き合いがあるブルワーズのマット・アーノルド編成本部長(46)とレイズのエリック・ニアンダー編成本部長(43)が、それぞれの編成部門を率いている。
2人の関係は2007年までさかのぼる。アーノルド氏がプロスカウトとしてレイズに加わり、ニアンダー氏はインターンとして球団でのキャリアをスタートさせた。
アーノルド氏が今も思い出す光景がある。トロピカーナフィールドの球団オフィスで迎えた早朝、大きなテーブルを囲み、コーヒーを飲みながら意欲あふれる若手幹部たちと仕事をしていた。
当時のメンバーには、アーノルド氏(現ブルワーズ編成本部長兼GM)、ニアンダー氏(現レイズ編成本部長)、上司のアンドリュー・フリードマン氏(現ドジャース編成本部長)、ハイム・ブルーム氏(現カージナルス編成本部長)、ジェームズ・クリック氏(現ブルージェイズ・ベースボール戦略担当副社長)、そして2009年からピーター・ベンディックス氏(現マーリンズ編成本部長)も加わった。後に全員が、それぞれMLB球団の編成部門で要職を担うことになる。
アーノルド氏はかつて、任天堂のゲーム機まで置かれていた当時のオフィスを「ちょっとだけ、子どもたちが施設を好き勝手に動かしているような感じだった」と表現した。
実際には「ちょっと」以上だったかもしれない。ニアンダー氏が思い出すのは、フロリダ州ポートシャーロットにあるレイズのスプリングトレーニング施設で過ごした深夜だ。2人とも夜間警備員から不審者ではないか確認され、身分証の提示を求められたという。互いを驚かせようと悪ふざけを繰り返していたため、疑われても無理はなかった。
「夜遅くのポートシャーロットのオフィスを想像してみてください。本当に静かで、外は真っ暗です。そうなると、誰かを驚かせる絶好の機会が生まれる。そんなことをやろうと思うくらい幼稚なら、ですけどね」
ニアンダー氏は22日(日本時間23日)、そう振り返った。
「彼はいつも人にちょっかいを出してくる。文字通り床をはって僕の机の下まで来て、両脚をつかんで揺さぶるんですよ。建物に自分以外誰もいないと思っている時にやられたら、本当に恐ろしいですよ」
アーノルド氏はそう笑った。
もちろん、すべて親しさの裏返しだ。
「彼は頭がものすごく大きいんです。帽子なら8 1/4サイズ(頭囲約66センチ)が本当に入るくらい。文字通り巨大な頭ですよ。でも、その中にはいいものがたくさん詰まっている」
2人が当時を振り返る際によく口にする言葉が「自由」だ。ヤンキースやレッドソックスなどのア・リーグ東地区の強豪球団で働く幹部ほど重圧にさらされず、さまざまなアイデアを試し、何が機能するかを確かめる余地があった。
そして、多くの試みが成果につながった。アーノルド氏とニアンダー氏は、レイズが2008年に球団史上初のワールドシリーズ進出を果たした際も球団に在籍。その後5年間でさらに3度、ポストシーズンへ進出した。
「当時のレイズは、お絵描き玩具の『エッチ・ア・スケッチ』みたいに運営できたんです。いったん振って消して、『これを試してみよう』と言えるような環境でした。僕たちはまだデビルレイズでしたからね。『これまであまり勝てていないんだから、新しいことを試してみよう』という感覚でした」
2人の歩んできた歴史、そして似通った市場規模を考えれば、現在の両チームに多くの共通点があることも不思議ではない。
今季、ブルワーズとレイズは打率、安打数、内野安打、バント安打、犠打企図数でMLBトップ2を占め、盗塁数でもともに5位以内。一方、本塁打数は両球団とも下位10球団に入った。
「本当に幸運でした。才能があり、意欲にあふれ、好奇心旺盛な人たちに囲まれていたんです」とニアンダー氏は語った。
「そうした姿勢は組織全体にしっかり根づいていましたし、おそらくミルウォーキーでも同じ文化が築かれていると思います。マットをはじめ、多くの優秀な人たちに囲まれて成長できないなら、それは自分の責任です。成長しない方が難しいくらいですよ。学び、成長し、より良い方法を探すために創造性を発揮できる自由もあった。本当に素晴らしい環境でした」
アーノルド氏の野球界への道は、祖父が所有していた1977年式シボレー・シャイアンから始まった。
ロサンゼルス西方のカリフォルニア州オックスナードで生まれたアーノルド氏は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で経済学の学位取得を目指していた学生時代、当時エンゼルスの育成部長だったトニー・リーギンス氏と面談する機会を得た。野球界でのキャリアについて話す中、リーギンス氏はアーノルド氏に具体的にどの分野を専門にしたいのかと尋ねた。アーノルド氏には答えがなかった。
「編成部門の中に、いくつもの異なる専門分野があることすら知りませんでした」とアーノルド氏は、ブルワーズの編成部門トップに昇格した2022年にMLB.comへ語っている。
「『何でもやります』という感じでした」
アーノルド氏が最初に得た仕事は、2000年のドジャースのフロントだった。担当は主にビジネス部門。祖父の古いトラックを運転し、サンタバーバラとドジャースタジアムの間を毎日片道100マイル(約161キロ)通った。選手の送迎、試合中にスコアボードで流す企画のためのファン対応など、必要とされる仕事を幅広くこなした。
充実した日々だったが、アーノルド氏の志向は編成部門にあった。この経験を足掛かりに、2002年にはレンジャーズで働く機会を得た。同年12月、ウインターミーティングで仕事を探していた際には、当時フロントの若手有望株だったジョン・ダニエルズ氏(49)が、自身のホテルの部屋の床で寝泊まりさせてくれたという。ダニエルズ氏は現在、レイズのシニアアドバイザーを務めている。
その経験は実を結んだ。アーノルド氏はレッズでプロスカウト担当副部長としてフルタイムの職を得ると、5年後にプロスカウトとしてレイズへ移り、その後はプロスカウト部長を務めた。2014年には、レイズの監督候補として当時ブルワーズの特別補佐だったクレイグ・カウンセル(56)の面接にも携わった。最終的に監督にはケビン・キャッシュ(48)が就任した。
アーノルド氏はカウンセルに強い印象を受け、ブルワーズについて語る内容にも好感を持った。そして2015年10月、ミルウォーキーで働く機会が訪れると、新任のデービッド・スターンズGM(41)が最初に採用した人材として、副社長兼GM補佐に就任した。
2022年10月、スターンズGMが編成トップの職を退くと、アーノルド氏がブルワーズの編成部門トップへ昇格した。以降、ブルワーズは毎年ナ・リーグ中地区を制し、直近3年間のレギュラーシーズン成績はMLB最高となっている。
これまでレイズからは多くの優秀な人材が巣立ち、その影響を球界全体へ広げてきた。その中でニアンダー氏だけは一つ違う。レイズを離れなかった。
ニアンダー氏は、プロとしてのキャリアのほぼすべてをレイズで過ごしている。バージニア工科大学を卒業後、ベースボール・インフォ・ソリューションズでデータ収集を担当するインターンとしてひと夏を過ごし、その経験を足掛かりに2007年1月、レイズの編成部門インターンとなった。
それ以来、同じ組織で約20年にわたってキャリアを重ねてきた。2007年10月にフルタイム採用され、2009年に野球研究開発部門マネジャー、2011年に編成部門ディレクター、2014年に編成部門副社長、2016年に編成部門上級副社長兼GMへ昇進。そして2021年9月、編成本部長に就任した。
ニアンダー氏は、フリードマン氏とマット・シルバーマン球団社長の下で働いた。フリードマン氏がドジャースへ移った後、ニアンダー氏が編成部門トップへ昇格するまでの3年間は、シルバーマン社長が編成部門を統括した。
ニアンダー氏は、デビルレイズ時代を脱し、ジョー・マドン監督(72)の下で恒常的に優勝争いへ加わるチームへ成長していく過程を球団内で経験した。若きキャッシュ監督の下でチームを再建した時期にも球団に在籍していた。
そして今もレイズに残り、直近8年間で6度のポストシーズン進出、2度のワールドシリーズ進出へ導いている。
22日(同23日)に取材に応じたニアンダー氏は、現職に昇格した際の言葉を改めて紹介された。
「4カ月のインターンとして始まったのに、どういうわけか今もここにいる。野球への愛情がキャリアにつながった。当時も夢のような機会だったし、今も夢のような機会です」
それから5年。ニアンダー氏は今も、その思いは変わらないと語った。オフィスにはもう任天堂のゲーム機はないかもしれない。同僚を驚かせる悪ふざけも、以前ほど頻繁ではないだろう。それでも、この球団は今もニアンダー氏にとってかけがえのない存在だ。
「ここ以上に働きたい組織はありません。それは、ここにいる人たち、この野球への愛情、この組織への愛情、そしてここで勝てるという信念と大きく関係しています。ここで挙げる1勝1勝には、レギュラーシーズンの1勝から今回のような快進撃に至るケースも含め、ほかのどこよりも大きな満足感があります」
「ここでは、勝利の喜びや意味が何倍にもなる感覚をずっと持ってきました。自分が与えてもらった機会も、ほかの人たちが与えられた機会も、決して当たり前だとは思っていません。もちろん目標は勝つことです。ただ、ここで成し遂げるからこそ生まれる大きな意味まで加われば、ほかにはない特別なものになる。僕だけではなく、多くの仲間にとって同じです。何とかやり遂げたい。そして、もうすぐそこまで来ています」
その関係は今も変わらない。アーノルド氏、ニアンダー氏、フリードマン氏、ブルーム氏、ベンディックス氏ら元レイズ幹部の間では、今もメッセージのやり取りが続いている。レイズがア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)を制し、ブルワーズとのワールドシリーズ対戦が決まった際には、一気にやり取りが活発になった。
「僕はあそこで約10年間、本当に素晴らしい時間を過ごしました。当時一緒だった素晴らしい仲間たちは、今では球界の各地で働いています。今もあそこには親しい友人がたくさんいる。レイズで学んだ一番大切なことは、優れた人たちに囲まれ、しっかりしたプロセスを持つことです。そうすれば、結果もついてきてくれると信じています」
アーノルド氏はそう語った。
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