フリーエージェント(FA)市場の動きは鈍いものの、オフシーズン序盤の数週間でトレード市場ではすでにいくつか動きが出た。
ここまでのホットストーブをにぎわせているのは、2件の1対1のトレード。エンゼルスがテイラー・ウォードをグレイソン・ロドリゲスとの交換でオリオールズへ放出し、メッツとレンジャーズはブランドン・ニモとマーカス・セミエンをトレードした。
サンクスギビング(感謝祭)の週末を迎え、特に12月8日からフロリダ州オーランドでウインターミーティング(WM)が開催されることを踏まえると、そろそろ動きが本格化してきそうだ。
カイル・タッカー、コディ・ベリンジャー、ピート・アロンソ、アレックス・ブレグマンらトップFAの名前が見出しを飾ることになりそうだが、トレード市場も引き続き面白い状況になる可能性がある。年俸総額の削減を狙う球団もあれば、ロースター(メンバー構成)の穴を埋めるための手段としてトレード市場に向かう球団もあるだろう。
そうした前提を踏まえ、ここでは全30球団それぞれから、トレード候補となり得る選手を1人ずつ取り上げる。
<ア・リーグ東地区>
ブルージェイズ:ジョーイ・ロパーフィド(外野手)
外野の定位置争いが激しいトロントで、2025年は41試合の出場にとどまった。しかし、チャンスをもらったときには結果を残し、104打席で4本塁打、14打点、OPS.879をマークしている。球団の保有権もあと5年残っている26歳だけに、ブルージェイズが先発投手を補強するためのトレード要員となる可能性がある。
オリオールズ:ライアン・マウントキャッスル(一塁手)
マウントキャッスルはFA前、最後の年を迎えた。一塁は主にコビー・メイヨとサミュエル・バサロが務める見通しで、28歳のマウントキャッスルは放出可能な駒と見なされているようだ。ただし問題は、マウントキャッスルがキャリアで最も低調なシーズンを終えたということ。2025年は89試合で7本塁打、OPS.653に終わっている。
レイズ:ブランドン・ラウ(二塁手)
ラウはFA前、最後の年となる来季、年俸1150万ドル(約18億円)。このことからも、レイズのこれまでのやり方を考えれば、トレードの噂に上るのは自然な流れだと言える。二塁の打力アップを狙うチームにとっては、ラウは魅力的な左打者になるだろう。一方で、レイズはここ1〜2年、ラウの放出には慎重な姿勢を崩しておらず、現時点で明確な後任もいない。
レッドソックス:ジャレン・デュラン(外野手)
ボストンの外野陣は、控えめに言っても人材過多の状態にあり、デュランにロマン・アンソニー、セダン・ラファエラ、ウィルヤー・アブレイユがスタメン候補。デュランはあと3シーズン、球団に保有権があり、2024年のブレイクシーズンのあとで一歩後退したとはいえ、2025年も3.9 fWARを記録し、16本塁打、84打点、リーグ最多の13三塁打をマークした。
ヤンキース:スペンサー・ジョーンズ(外野手)
トレント・グリシャムが再契約したことで、ニューヨークの外野3枠のうち2枠は固まっており、ヤンキースは依然としてコディ・ベリンジャーと新契約を結んで呼び戻せることを期待している。その状況では、ジョーンズ(ヤンキースの有望株ランキング4位)とジャッソン・ドミンゲスは、レギュラーとして出場機会を得る枠がない選手となる。ジョーンズは昨季の2Aと3Aで35本塁打、OPS.933を記録しており、一級のトレード要員となる。
<ア・リーグ中地区>
ガーディアンズ:スティーブン・クワン(外野手)
クワンは年俸調停期間3年のうち2年目に入るタイミング。トレード価値がこれ以上高くなることはないかもしれない。クワンはメジャー4年間のすべてでfWAR3.0以上を記録しており、その間にゴールドグラブ賞も4年連続で受賞している。
ロイヤルズ:クリス・ブービッチ(左投手)
トレードに回せる先発投手が複数いるため、年俸調停最終年にいるブービッチはトレード要員になり得る。コール・ラガンスが2026年に復帰してセス・ルーゴ、マイケル・ワカとともにローテーションを担う見込みであることを踏まえると、ロイヤルズはブービッチの好調だった2025年シーズン(左肩の回旋筋腱板を負傷してシーズンを早く終えるまでに、20先発で116回1/3を投げ、防御率2.55を記録した)を生かし、補強することもできる。
<ア・リーグ中地区>
タイガース:タリク・スクーバル(左投手)
ア・リーグのサイ・ヤング賞を2年連続で受賞しているこの投手をトレードに出すつもりなのだろうか。おそらくそうではないだろう。ただ、FA前の最後年に入るスクーバルほど、トレードの噂を集める選手はいない。タイガースは左腕をトレードする誘惑に抗う可能性が高いが、もし市場に出す決断をした場合、届くオファーによっては考え直さざるを得なくなるかもしれない。
ツインズ:ジョー・ライアン(右投手)
ライアンの名前は昨夏のトレード期限前にもよく取り沙汰されたが、最終的にはミネソタに残った数少ない選手の一人となった。ツインズには、今オフに下さなければならない決断がいくつかある。完全な再建に踏み切り、ライアン(そしてバイロン・バクストン、パブロ・ロペス、ライアン・ジェフズら)をトレードに出すのか。それともア・リーグ中地区で優勝を狙い、こうした選手の周りに戦力を加えるのか。前者を選ぶのであれば、ライアンは非常に人気の高い投手になるだろう。
ホワイトソックス:ルイス・ロバートJr.(中堅手)
今年もまた、ロバートのトレードの可能性について語る機会がやってきた。ホワイトソックスはロバートの2026年の2000万ドル(約31億円)の球団オプションを行使しており、28歳のロバートの契約には2027年分の同様のオプションがもう1年分残っているため、獲得を狙う球団には2年間の保有権が与えられることになる。ロバートは2023年のオールスターシーズン以降、この2年間は成績が似たように低調だが、昨夏には52試合で9本塁打、OPS.793を記録した励みになる期間もあった。
<ア・リーグ西地区>
エンゼルス:ジョー・アデル(外野手)
エンゼルスは、FAを控えていたウォードを、あと4年の保有権が残っている先発投手ロドリゲスとのトレードでオリオールズに送ったため、すでに外野手を一人放出している。アデルにはあと2シーズンの保有権が残っており、2025年に37本塁打、98打点、OPS.778というブレークのシーズンを送ったことを考えれば、26歳の外野手を出したときにどのような見返りを得られるかを探ろうとする動きが出ても不思議ではない。
アストロズ:ヤイナー・ディアス(捕手)
ディアスは依然としてリーグ有数の打てる捕手の一人だが、守備はアストロズにとって引き続き問題となっている。ブロッキング能力では下位28%、フレーミングでも下位18%にとどまった。それでも、捕手に長打力を求める球団にとっては魅力的な存在であり、過去3年間でシーズン平均ほぼ20本塁打を放っている27歳に賭けてみようとするチームがあってもおかしくない。
アスレチックス:ルイス・セベリーノ(右投手)
たった1年しか在籍していない球団であっても“環境を変えた方がよさそうな選手”を挙げるとすれば、セベリーノはまさにそのタイプだ。右腕は昨オフに3年6700万ドル(約105億円)の契約を結んだが、サクラメントはセベリーノにとって悪夢のような場所になってしまった。ホームでは15先発で2勝9敗、防御率6.01だったのに対し、ビジターでは14先発で6勝2敗、防御率3.02。2026年に年俸2000万ドル(約31億円)を受け取ることになっており、2027年には2200万ドル(約34億円)の選手側の契約延長権を持っている。
マリナーズ:ルイス・カスティーヨ(右投手)
まず最初に断っておくと、カスティーヨがトレードされる可能性は低いと見られている。ただしマリナーズが大きな動きを狙うのであれば、多くのチームから関心を集める存在になるのは間違いない。来月で33歳になり、年俸2415万ドル(約38億円)はロースター(メジャー登録の選手)で最高額。ノートレード条項は最近失効し、契約は残り2年に加えて2028年の成績条件付きオプション(契約延長)がある。長期契約は避けつつ先発投手を必要としている球団にとって、非常に魅力的な補強候補になり得る。2019年以降は毎シーズン防御率3.64以下を記録しており、今も最も安定した先発投手の一人だ。
レンジャーズ:ジョシュ・ヤング(三塁手)
ヤングは2023年にオールスターに選出され、ア・リーグ新人王投票で4位に入り、ポストシーズンでも好成績を残してレンジャーズのワールドシリーズ制覇に貢献。一気にスター街道を進んでいるように思われた。しかし、負傷の影響で2024年は46試合の出場にとどまり、2025年も本来の力を発揮できず、114試合で14本塁打、61打点、OPS.684に終わった。ヤングは2月に28歳になり、環境を変えることでキャリアが再び上向く可能性がある。
<ナ・リーグ東地区>
ブレーブス:ショーン・マーフィー(捕手)
FA市場の捕手が非常に少ない状況を考えると、ナ・リーグ新人王に選ばれたドレイク・ボールドウィンも抱えるブレーブスには、マーフィーへの関心が集まってもおかしくない。マーフィーは、今後3年間で総額4500万ドル(約70億円)の球団保有権下にある。過去2年は股関節の負傷に悩まされ、その影響で打撃成績は落ちているが、守備面ではいまだ一流の捕手だ。
マーリンズ:エドワード・カブレラ(右投手)
ポテンシャルの高いトレード候補としてサンディ・アルカンタラが注目を集めてきたが、マーリンズは元サイ・ヤング賞右腕を手放さないようだ。カブレラの名前も噂にはたびたび上ってきたが、137回2/3で防御率3.53というキャリア最高のシーズンを過ごした後だけに、価値が高いうちに放出することを検討する可能性がある。
メッツ:ジェフ・マクニール(内外野手)
マーカス・セミエンの獲得によって、メッツの二塁は実質的に埋まったと見られている。さらに球団は市場に出ている上位クラスの外野手の獲得も目指しているとされ、その場合マクニールはユーティリティの役割となり、その役割はより低年俸のルイスアンヘル・アクーニャでも代替可能になる。マクニールは4年5000万ドル(約78億円)の延長契約の最終年を迎えており、契約には2027年の1575万ドル(約24億円)の球団の契約延長権と、200万ドル(約3億円)のバイアウト(契約解除金)が含まれている。
ナショナルズ:マッケンジー・ゴア(左投手)
トレード市場に出る可能性のある、保有権の残る先発投手の中でも有力な存在の一人だ。年俸調停期間3年のうち2年目に入る。新たにベースボール・オペレーション部門のトップに就任したポール・トボーニ編成本部長は、2025年に初めてオールスターに選出されたゴアを近年ディラン・クルーズ、ジェームス・ウッド、ブレイディ・ハウス、デイレン・ライル、ロバート・ハッセル三世らがメジャーに昇格したことで層が薄くなったマイナーの立て直しに生かす選択肢を持っている。
フィリーズ:ニック・カステヤノス(外野手)
ニック・カステヤノスは、あらゆるトレード候補リストの常連になっている。契約は残り1年と2000万ドル(約31億円)となっており、開幕時には別の球団でプレーしていてもおかしくない状況。依然として長打を放つ力は備えているものの、フィリーズがカステヤノスを動かすには、年俸の一部を負担する必要が出てきそうだ。
<ナ・リーグ中地区>
ブルワーズ:フレディ・ペラルタ(右投手)
ブルワーズはエースのペラルタをトレードする予定はないと述べているが、FAになるまで残り1年しかなく、トレードの可能性は消えていない。2026年の年俸は800万ドル(約12億円)でブルワーズとしては年俸を削る必要に迫られているわけではないが、来オフにドラフト指名権の補償だけを残して退団を許すより、有望株のパッケージを見返りに得る方が魅力的かもしれない。
カージナルス:ブレンダン・ドノバン(内野手)
グレイがレッドソックスに移籍し、カージナルスのトレードシーズンはすでに始まっている。ノーラン・アレナドもセントルイスを離れる公算が大きいが、最も確かな対価を呼び込めるトレード要員はドノバンになるかもしれない。ドノバンは球団の保有権があと2年残っており、内外野さまざまなポジションをこなせるユーティリティ性も備えている。2025年には初めてオールスターに選出され、10本塁打、50打点、OPS.775でシーズンを終えた。
カブス:ニコ・ホーナー(二塁手)
ホーナーは2023年3月に結んだ3年総額3500万ドル(約55億円)の契約最終年に入る。必ずしも典型的なトレード候補とは言えないものの、状況面では“理想的なトレードターゲット”になり得る条件がそろっている。守備力の高さ、打席での安定感、リーダーシップによってカブスにとって価値の高い存在になっているが、マット・ショウを二塁に回すことで、今オフに補強候補が多くいる三塁に空きをつくることもできる。
パイレーツ:ミッチ・ケラー(右投手)
パイレーツは1年以上、ミッチ・ケラーへの関心を受けてきたが、これまでトレードを成立させることはなかった。ただ、打線の補強が必要になり、ついに決断を迫られる可能性もある。2023年のオールスター投手であるケラーは、直近3シーズンはいずれも防御率4.19〜4.25の範囲に収まっている一方で、その3年すべてで175回以上を投げており、この期間のナ・リーグではローガン・ウェブ、ザック・ギャレン以外のどの投手よりも多いイニングを投げている。
レッズ:ハンター・グリーン(右投手)
レッズは、ここ2シーズンで合計258イニングを投げ、防御率2.76を記録している2024年のオールスター右腕グリーンについて、積極的にトレード要員として売り込むつもりはないと明言している。とはいえ、球団が若いスター選手(26歳)を放出するつもりだと公言することは、まずない。シンシナティは先発ローテーションの層が厚く、市場に出ている一流打者の条件が高過ぎるとなれば、狙っている大砲を手に入れるためにグリーンをトレード要員として使う可能性は常にある。
<ナ・リーグ西地区>
ダイヤモンドバックス:ジェイク・マッカーシー(外野手)
ケテル・マルテのトレードは実現の可能性が高いとは言えないが、ダイヤモンドバックスにはトレードに回せる外野手が多くそろっており、そうした動きが現実味を帯びているのも事実だ。2025年はコービン・キャロル、ルルデス・グリエルJr.、アレック・トーマスが外野で大半の試合に出場し、ジェイク・マッカーシーは控えだった。マッカーシーは67試合で4本塁打、20打点、OPS.591という成績にとどまったものの、リーグでも屈指の俊足に加え、守備でもプラス評価を得ている。
ドジャース:ダルトン・ラッシング(捕手)
ラッシングは2024年にドジャースのプロスペクトランキングで1位だったが、2025年は控え捕手としての起用が中心。53試合で4本塁打、24打点、OPS.582と打撃面では期待通りではなかった。それでも、球界でも有数の捕手プロスペクトであることに変わりはない。ウィル・スミスが2033年まで契約下にある状況で、ラッシングが長期的にどのような位置付けになるのかは不透明だ。ドジャースのメジャー40人枠には、ラッシング以外に捕手登録の選手がいないため、球団が今すぐ放出を狙っているわけではないものの、大型トレードの目玉としてパッケージの中心に据えられてもおかしくはない。
ジャイアンツ:ホスアー・ゴンサレス(遊撃手)
ゴンサレスはMLBパイプラインのメジャー全体プロスペクトランキングで82位、ジャイアンツのトップ30では2位。まだ18歳ながら将来を嘱望されている。ただし、今後6年間はウィリー・アダメスが遊撃を守る見込みで、そのポジションへの道はふさがれている。サンフランシスコのプロスペクト4位にいるジョニー・レベルも18歳の遊撃手であり、投手陣を強化するためにトレード要員として使える遊撃手の層が組織内にそろっている。
ロッキーズ:ブレントン・ドイル(中堅手)
ドイルはブレイクした2024年シーズンを再現することはできず、2025年は15本塁打、57打点、18盗塁、OPS.651に終わった。ただし、27歳の中堅手として守備面ではプラス評価を得ており、走力も一級品だ。今オフから年俸調停4年のうち最初の年に入り、保有権はあと4年残っていることを踏まえると、ポール・デポデスタ編成本部長がベースボール・オペレーション部門のトップに就任して再建に着手するチームにとって、ドイルは有力なトレード要員になり得る。
パドレス:ジェイク・クロネンワース(内野手)
クロネンワースは2021〜22年の2年連続オールスター選出後、成績がやや落ちたが、今季は135試合で出塁率.367(自己最多)、OPS.744と立て直した。内外野を守れる万能な選手で、今後5年間で総額6000万ドル(約94億円)の契約を結んでおり、トレードに踏み切れば、パドレスは必要としている年俸面での柔軟性を得られ、見返りとして確かなパッケージを引き出せる可能性が高い。
