消防士からレジェンドまで、大会を彩る知られざる17人の物語

February 28th, 2026

この記事を読んでいるあなたには、アーロン・ジャッジやポール・スキーンズについて改めて説明する必要はないだろう。大谷翔平のことはもちろん、愛犬デコピンのことまでよく知っているはずだ。さらには、ドミニカ共和国のフリオ・ロドリゲスが故郷で慈善活動に力を入れていることも、プエルトリコが2017年大会以降、金髪に染めて「チーム・ルビオ」として結束していることも知っているだろう。

しかし、ワールドベースボールクラシック(WBC)の特別さは、脚光を浴びるのがスーパースターだけではない点にある(もちろんスター選手も多いが)。世界各地から様々な背景を持った選手たちが集まり、大きなサプライズを見せてくれる。

今回は、そうした17人の選手に光を当てたい。彼らの物語に価値があるのはもちろん、世界中の注目が集まる舞台で、一生に一度のプレーを見せる可能性を秘めているからだ。

1. レオナルド・レジナット(ブラジル)

WBC予選史上、間違いなく最高の選手の一人だ。ブラジルは2012年以降すべての予選に出場しており、レジナットはその全てで中心選手としてプレーし、2度の本大会出場に導いた。予選史上最多安打となる51打数26安打を記録し、2013年の本大会でも11打数4安打と存在感を示した。まもなく36歳を迎えるレジナットは、すでに引退を表明しており、2026年大会が最後の舞台となる。

2. アダム・マッコ(カナダ)

唯一無二の野球人生を送ってきた。スロバキアで生まれ、周囲のほとんど誰も知らなかった競技に魅了された。(スロバキアはチェコと国境を接しているが、WBSCランキングはスロバキアが72位、チェコが15位と大きな差がある。)

「小学一年生の初日に野球と出会った。スロバキアでは誰も野球を知らなかったけど、学校の無料課外活動として行われていて、友達と一緒に始めた。すぐに夢中になった」とマッコは昨年語っている。

11歳で家族とともにアイルランドへ移住し、YouTubeを見ながらジャスティン・バーランダーのフォームを真似し始めた。翌年カナダへ移り、10年生としてヴォークソール・アカデミー・オブ・ベースボールに入学してから、本格的にプロへの道が開けた。史上初の一次ラウンド突破を目指すカナダ投手陣の中心として、活躍が期待されている。

3. ケビン・ケリー(オランダ)

2010年からオランダ代表としてプレーし、WBCにも2度出場。欧州野球選手権では数々の金メダルを獲得してきた。ここ2年はメキシコでプレーしているが、真価を発揮したのは2025年秋の欧州選手権。前回王者スペインとの準決勝で、エースのトム・デ・ブロックが開始わずか2アウトで負傷降板した。

しかし、ケリーがリリーフとして登板すると、8回1/3を無失点、16三振という圧巻の内容で締めくくり、オランダ代表を決勝へと導いた。

4. ブレナン・バーナーディーノ(メキシコ)

まさしく苦労人というキャリアを過ごしてきた。2018年にレッズから戦力外となり、その後は独立リーグのウィニペグ・ゴールドアイズでプレー。契約のないままスプリングトレーニングに参加し、自らチャンスを求めて各球団のキャンプを回った末、ガーディアンズの目に留まり契約を勝ち取った。しかし2カ月後、契約はメキシカンリーグのトロス・デ・ティファナへと譲渡される。そこで数年を過ごしたのち、マリナーズと契約し、2022年にメジャー昇格を果たした。

すでにメジャー通算169試合登板を記録している左腕は、今春WBC初出場となる。ただしメキシコ代表としては2015年と2019年のプレミア12に出場しており、計7回2/3を投げて11三振、1失点と好投している。

5. フアン・モンテス(ニカラグア)

大会No.1の口ひげを持つモンテス(写真左)は、今大会に出場する唯一のグアテマラ出身選手(なお、グアテマラ生まれでメジャーに到達した選手はいまだいない)。サンカルロス大学でプレーし、国内でのトライアウトを経てオリオールズと契約した。マイナーではA級アバディーンが最高だったが、ニカラグア代表では主力として活躍してきた。今年3月の台北予選では13打数5安打2盗塁を記録している。

Juan Montes, left, and two glorious mustaches.

6. マーティン・シュナイダー(チェコ)

電気技師であり“大谷翔平から三振を奪った男”オンジェイ・サトリアをすでに知っているなら、次に紹介したいのが同じチェコ代表のマルティン・シュナイダーだ。故郷オロモウツでは消防士として働きながら、代表では遊撃手としても投手としても長年チームを支えてきた。

仕事の都合で十分な実戦登板ができないまま、2022年WBC予選決勝のスペイン戦を迎えたが、ベテランは動じなかった。6回1/3をしっかりと抑え、チェコを史上初のWBC本大会へ導いた。

「(パベル・チャディム監督に)先発を打診された時、『俺が明日、死ぬ気でマウンドに上がることは分かっているだろ。だから、どうするかはあなたが決めてくれ。監督の判断を信じている』と答えた。準備はできていたし、覚悟もあった。あとは全力を尽くしただけだ」とシュナイダーは振り返る。

2023年大会出場後、翌春には欧州代表として侍ジャパンとの親善試合にも選出された。しかし登板直後に負傷し、肩の手術を受けた。それでも40歳となった今、再び代表メンバーに名を連ね、この舞台に帰ってきた。

7. ティム・ケネリー(オーストラリア)

こちらも消防士だ。代表で長年にわたり主将を務めてきたケネリーは、2005年に18歳でフィリーズと契約。2013年大会からWBC代表に名を連ねており(同年が傘下球団での最後のシーズンだった)、堅実な外野守備と33打数9安打、1本塁打、3打点という打撃成績でチームを支えた。その後はオーストラリアン・ベースボールリーグの伝説的存在となり、通算安打(509)、本塁打(63)、打点(256)、出場試合数(453)で歴代最多。盗塁も69で歴代2位を誇る。

前回大会では、当時3歳だった娘が東京ドームの観客を巻き込み、父への声援を生み出した。おそらく最後の大会となる今回、再びその光景が見られるか注目だ。

8. ヴィトール・イトウ(ブラジル)

ブラジル代表にはNPB経験者が数人いるが、イトウの経歴は一味違う。予選で13打数5安打を記録した正遊撃手は、阪神タイガースの通訳を務めている。

「一番難しいのは、やりすぎないことだ。助けようとするあまり、必要以上に話しすぎてしまったり、動きすぎてしまうことがある。バランスが何よりも大事で、何よりも難しい」とイトウは昨年3月、MLB.comに語った。

なお、イトウは日本で生活し働いているが、チームメートのオズバルド・カルバリョ(DH)は建設業に従事しながら、地元サンパウロのニッケイ・マリリアでプレーしている。

9. アレクセイ・ラミレス(キューバ)

もちろん分かっている。元メジャーリーガーで、オールスターにも選ばれ、シルバースラッガー賞を2度受賞したラミレスは、ここまで紹介してきた選手とは明らかに異なる。しかし彼は2016年以降メジャーでプレーしておらず、最後のプロシーズンは2018年のメキシカンリーグ(ディアブロス・ロホス)だった。その後、2024年にキューバ国内リーグへ復帰している。

ラミレスがWBCに戻るのは2006年の第1回大会以来。現在は遊撃手ではなく一塁手としてプレーしている(2006年大会では中堅手だった)が、44歳とは思えない打撃を披露しており、今季は打率.339、出塁率.475、長打率.607、15本塁打を記録した。

10. アルベルト・ミネオ(イタリア)

今大会が2度目のWBCとなる。イタリア・ゴリツィア出身のミネオは18歳だった2011年から代表入りしており、これまでに代表戦60試合以上に出場。2024年には欧州代表として侍ジャパンとの親善試合にも参加した。

「代表のユニフォームを着ることは、常に責任であり名誉だ。大事なのは情熱。そして努力し、自信を持って、100%を尽くすことだ。セルベリ監督は自身の考えを私たちに伝えてくれている。全員が競争者であり、立ち止まるつもりはない」とミネオは最近の会見で語った。

イタリア代表はとにかく”捕手”の層が厚い。ベンチでは監督のセルベリやベンチコーチのポサダといったレジェンド捕手たちが指揮を執り、フィールドではミネオとホワイトソックスのカイル・ティールがマスクをかぶる。指導者から選手に至るまで、捕手のスペシャリストが揃った盤石の布陣だ。

11&12. アレックス & ラクラン・ウェルス(オーストラリア)

英国のトリステン&ブレンダン・ベック、コロンビアのカルロス&マイケル・アローヨ、メキシコのラモン&ルイス・ウリアスなど、今大会には兄弟で出場している選手が複数いる。しかし双子は非常に珍しい。

ともに左腕投手で、兄アレックスは2021~22年にオリオールズでメジャー昇格を果たし、2024・25冬はABLのシドニー・ブルーソックスでプレーした。一方ラクリンはKBOで結果を残し、キウム・ヒーローズで4先発、防御率3.15を記録。今冬LGツインズと契約している。

13. マレク・フルプ(チェコ)

チェコ代表の正捕手マルティン・チェルヴェンカは、チェコ史上最高の選手と評される存在だ。3Aまで昇格し、チェコ生まれ・チェコ育ちの選手として初のメジャー到達にあと一歩まで迫った。守備力に定評があり、昨年9月の欧州選手権3位決定戦では2本塁打7打点と大暴れした。

そのチェルヴェンカを超える可能性を秘めているのが、端正なルックスと強肩を兼ね備えた万能型外野手のマレク・フルプだ。2023年WBCで佐々木朗希の豪速球を捉えて二塁打を放ったことで読売ジャイアンツのスカウトの目に留まり、昨夏ジャイアンツでデビュー。出場2試合目で手首を骨折してしまったが、欧州育ちの野手として、そしてチェコ生まれの選手として初のNPB選手となった。

現在はメキシカンリーグのカリエンテ・デ・ドゥランゴと契約。出場すれば、メキシコでプレーする初のチェコ人選手となる。

14. アダム・ホール(カナダ)

もし別の人生を歩んでいたら、ホッケー選手になっていたかもしれない。カナダ人の父とバミューダ人の母のもと、バミューダのハミルトンで生まれたホールは、氷上ではなくダイヤモンドを選んだ。珍しいどころか、ほとんど前例がなく、プロ野球界で唯一のバミューダ出身選手である。

「父は野球人ではなく、カナダ育ちでホッケーが好きだった。もしスケートリンクの近くで育っていたら、きっとその道を歩んでいただろう。でも2、3歳年上の仲間たちと一緒に野球をする環境に恵まれたのは幸運だった」とホールはMLB.comに語っている。

昨年はブルワーズ傘下で3Aに到達し、メジャーまであと一歩に迫った。だがその前に、まずはカナダを大会史上初の一次ラウンド突破へ導くことが目標となる。

15. シャイロン・マルティス(オランダ)

2006年の第1回大会にも出場した今大会の3人のうちの1人である(1人はアレクセイ・ラミレス、そしてもう1人は次に登場する)。当時わずか18歳だったマルティスは、WBC史上屈指の快投を演じ、パナマ戦で6回を無安打に抑えた。

問題はあと3アウトでコールド成立という場面で、球数制限まで残り8球しかなかったことだ。それでも65球目、最後の1球で併殺を奪い試合終了。2023年にプエルトリコが継投でノーヒットノーランを達成したが、WBCで先発としてノーヒッターを記録したのは今もマルティスだけである。

16. パオロ・エスピーノ(パナマ)

夢を諦めずにキャリアを築いた選手の一人だ。2006年大会ではまだ19歳、高校生ながらオランダ戦で1回無失点を記録した。そこからメジャー到達までにはさらに11年を要したものの、その後はナショナルズで2021年と2022年にそれぞれ100イニング超を投げている。代表にも長年貢献しており、2006年と2009年の本大会、さらに2012年と2016年の予選にも出場している。

17. 陳傑憲(チェン・ジェシェン/チャイニーズ・タイペイ)

最後は、すでにスターの地位を確立しているものの、その歩みがあまり知られていない選手を紹介する。CPBL(台湾プロ野球)史上最大級の契約を結び、2024年プレミア12でMVPを受賞し、台湾代表の主将も務めている。しかしその成功は約束されたものではなかった。日本の高校に進学後、2012年のNPBドラフトに挑んだが指名はなかった。台湾へ戻り、社会人野球リーグでプレーを続け、2016年のCPBLドラフトで指名を受けた。

その後の活躍は圧巻だ。台湾シリーズ制覇、首位打者、オールスター6度選出、ゴールデングラブ賞4度受賞、最優秀遊撃手2度、最優秀外野手3度と、CPBL屈指の実績を積み重ねてきた。台湾がマイアミ行きを果たすとすれば、その中心にいるのは間違いなくチェンである。