2025ポストシーズン、全シリーズの名場面を振り返る

November 4th, 2025

ワールドシリーズ第7戦の後、ブルージェイズの守護神ジェフ・ホフマンは決して雄弁ではなかったが、そのコメントはすべてを物語っていた。

「たった1球。ああ、そういうことだよ」

これこそが、MLBポストシーズンの魅力だ。たった1球で、試合も、シーズンも、そして選手の名声さえも覆ってしまう。

ホフマンが語るその1球は、もちろん九回1死でミゲル・ロハスに浴びた同点本塁打のこと。痛恨の一打が、第7戦の流れを大きく変えた。そのまま試合は延長戦に突入し、ドジャースが11回の末に勝利。球団史上初のワールドシリーズ連覇を成し遂げた。

それは、このポストシーズンで見られた数々の名場面のひとつだった。緊張、驚愕、波乱、苦悩、そして歓喜が交錯する舞台を彩った名場面を、各シリーズから1つずつ紹介する。

タイガース vs ガーディアンズ(ア・リーグ・ワイルドカード):ディングラーの一発

ア・リーグ中地区のライバルである両チームは、わずか3週間の間に3度対戦した。シーズン終盤の直接対決2カードもあり、ガーディアンズはタイガースに最大15.5ゲーム差をつけられていた状況から、驚異的な追い上げで地区首位に立った。

そのため、プログレッシブフィールドで行われたシリーズは、なおさら、緊張感と熱気に満ちていた。タイガースとガーディアンズが1勝ずつを分け合い、決着は第3戦に持ち込まれた(3戦2勝制)。

そして試合は1−1の同点で迎えた六回、タイガースの捕手ディロン・ディングラーが故郷オハイオ州北東部のファンたちの心を打ち砕くソロ本塁打を放ち、幼い時から応援してきたガーディアンズに、自らの手で引導を渡した。この一撃で主導権を握ったタイガースは、最終的に6-3で勝利した。

「勢いを持っていたチームが次に進むことになると思っていた。あの瞬間、流れを完全に引き寄せることができたよ」とディングラーは試合後に語った。

ドジャース vs レッズ(ナ・リーグ・ワイルドカード):新人・佐々木朗希の衝撃

戦前の予想通り、力の差がはっきりと表れたシリーズとなった。ドジャースがレッズを短期決戦で一蹴したこのカードは象徴的な一瞬こそなかったが、最も注目を集めたのは、ドジャース待望のクローザーが誕生したことだった。

ドジャースのブルペン陣は、連覇を達成する上での懸念材料とされており、実際に両試合の八回では不安定な投球が続き、ドジャースタジアムの空気も重かった。だが、第2戦の九回に登板した佐々木朗希(24)がすべてを変えた。101マイル(約163キロ)の速球を連発し、わずか11球でレッズ上位打線を2三振とファーストフライで片付けた。

プロ入り後、わずか5度目の救援登板だったが、ドジャースのブルペンに対する見方は一夜にして変わった。

「言葉にならないね。『すごい』としか言えない。ああいう投球こそ、チームに必要なんだ」とマックス・マンシーは語った。

ヤンキース vs レッドソックス(ア・リーグ・ワイルドカード):シュリットラーの逆襲

ヤンキースとレッドソックス。宿命のライバル対決に、さらに刺激を加えたのが、第3戦に先発したマサチューセッツ州ウォルポール出身の新人投手キャム・シュリットラーだった。

ボストン出身の右腕は、試合を完全に支配した。ポストシーズン初登板にして、8回、無失点、12三振、無四球という前人未到の記録を達成。ヤンキースは4-0で完勝した。

試合後、シュリットラーは地元ボストンの人々から受けたSNS上での声が闘志に火をつけたと語った。

「俺はボストン出身なんだ。あの街の人たちが言ってたことの中には気に入らないものがあった。だから今日は絶対に集中して、やり返してやると思ってたんだ」と言った。

カブス vs パドレス(ナ・リーグ・ワイルドカード):PCA、覚醒の時

昨年12月のトレードで加入したカイル・タッカーが打線を強化した一方で、2025年シーズンにブレイクを果たしたのがピート・クロウ=アームストロング(通称PCA)だった。パドレスとのシリーズ第3戦で主役となった。

初回、マニー・マチャドの打球初速111.2マイル(約179キロ)のライナーをダッシュしてから華麗なスライディングキャッチ。捕球確率はわずか10%だった。そして二回、PCAはタイムリーを放って先制し、カブスはそのまま3-1で勝利。宿敵ブルワーズとの地区シリーズ進出を決めた。

ブルージェイズ vs ヤンキース(ア・リーグ地区シリーズ):主役はブラディ

ブルージェイズはレギュラーシーズンでヤンキースに最大8ゲーム差をつけられていたが、直接対決13試合で8勝を挙げて逆転優勝を果たし、ア・リーグ東地区を制した。

とはいえ、ヤンキースはポストシーズン経験豊富な前年のリーグ王者であり、対するブルージェイズの主力陣はまだプレーオフで1勝も挙げたことがなかった。

懐疑的な見られ方をされる中、特に大きな重圧を背負っていたのが、5億ドル(約740億円)の男、ブラディミール・ゲレーロJr.だった。9月にはスランプに陥り、過去のポストシーズンでも目立った活躍はなかった。

だが第1戦の初回、ポストシーズン初となるソロを放ち、ゲレーロは今年のブルージェイズが「本気」であることを証明した。

「今日はブラディに何か特別な雰囲気があった」とジョン・シュナイダー監督は試合後に語った。

その勢いは続いた。ゲレーロは4試合で17打数9安打(打率.529)、3本塁打という驚異的な数字を残し、伝説的な10月の幕を開けた。

ブルワーズ vs カブス(ナ・リーグ地区シリーズ):アンドリュー・ボーンの一撃

ブルワーズは今季ナ・リーグ中地区を制したものの、カブスとの直接対決では負け越しており、このシリーズでも2勝0敗から追いつかれ、敗退の危機に立たされていた。

だが運命の第5戦、アメリカンファミリーフィールドで、ブルワーズのシーズンを変えた伏兵が再び躍動した。それが、シーズン途中にホワイトソックスからトレード加入し、64試合で9本塁打、14二塁打を放ったアンドリュー・ボーンだ。

四回、1−1の同点でボーンがコリン・リイの球を仕留めた。レフトスタンドへと吸い込まれる勝ち越しソロでブルワーズはそのまま3-1で勝利。6シリーズ連続でのポストシーズン敗退に終止符を打った。

マリナーズ vs タイガース(ア・リーグ地区シリーズ):リバスのバースデー・タイムリー

今季ポストシーズン屈指の好シリーズとなったこの対戦は、壮絶な結末を迎えた。ワールドシリーズ第3戦で延長18回が生まれる前にこの2チームは15回まで戦い抜いたのだ。

最終的にはホルヘ・ポランコのタイムリーが4時間58分の死闘に終止符を打ったが、最も勝利確率を動かしたプレーは七回に訪れた。

マリナーズが2-1と1点ビハインド、あと7アウトで敗退という場面。代打で登場したのは28歳のユーティリティプレーヤー、レオ・リバス。マイナーリーグを渡り歩いた苦労人は、2死からタイラー・ホルトンの球を捉え、センターへタイムリーを放った。試合を振り出しに戻し、延長戦へと導いた。

しかもこの日は、誕生日だった。

「朝起きたときに思ったんだ。今日はきっといい日になる。最高の誕生日になるぞ、ってね」とリバスは語った。

ドジャース vs フィリーズ(ナ・リーグ地区シリーズ):「テオ・タイム」

レギュラーシーズンを順当に勝ち上がったとはいえ、圧倒的というほどではなかったドジャースは、10月に入って本領を発揮できるかが注目された。ワイルドカードでレッズを退けたあと、格好の試金石となったのが、ナ・リーグ東地区王者フィリーズとの対戦だ。

第1戦では、ドジャース打線がクリストファー・サンチェスの前に苦しみ、七回を迎えた時点で2-3と劣勢だった。だが2死一、二塁で「テオ・タイム」がやってきた。テオスカー・ヘルナンデスが救援マット・ストラムのフォーシームを叩き、右中間スタンドへ逆転の3ラン。試合をひっくり返した。

このシリーズでは、最終第4戦でフィリーズ救援投手オライオン・カークリングの送球ミスによるサヨナラ負けなど、他にも劇的な場面があった。だがテオスカーの一振りこそが、試合(5-3の勝利)とシリーズ、そしてナ・リーグ全体の流れを変えた。

「神に感謝するよ。打球がスタンドに届いてくれて本当に良かった」とテオスカーは語った。

ブルージェイズ vs マリナーズ(ア・リーグ優勝決定シリーズ):PS男、スプリンガー

ブルージェイズがジョージ・スプリンガーと球団史上最大のFA契約を結んだ理由の一つは、ポストシーズンでの勝負強さだった。その真価が発揮されたのは、35歳となった今季。待った甲斐があったと言える。

復活のシーズンを送ったスプリンガーは、ア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)第7戦の七回、一打席にすべての思いを託された。走者2人を置き1死、スコアは1-3。マリナーズはあと7アウトで球団史上初のリーグ制覇だった。

右膝へ死球を受け、痛みに耐えながらプレーしていたスプリンガーが、エドゥアルド・バザルドの球を完璧に捉え、逆転の3ラン。スタンドは歓喜の渦に包まれ、カナダ中が熱狂した。

ブルージェイズは4-3で勝利し、32年ぶりとなるワールドシリーズ進出を果たした。

負傷を抱えながら放った勝利を呼ぶ一撃は1993年のジョー・カーター、1988年のカーク・ギブソンの本塁打を思わせるほど伝説的瞬間となった。

また、七回以降に複数点ビハインドから逆転本塁打を放ったのは、ポストシーズン第7戦史上初の出来事だった。

「叫びすぎて頭が痛くなったよ」とスプリンガーは笑った。

ドジャース vs ブルワーズ(ナ・リーグ優勝決定シリーズ):史上最高の「ショウ」

ブルワーズは今季MLB最高勝率を誇ったが、このシリーズを完全に支配したのはドジャースだった。スイープでの決着は「ドジャース大本命」という見方をさらに強めた。

これまで、大谷翔平(31)はポストシーズンの舞台で二刀流の真価を発揮する機会がなかった。しかし、ついにその時が訪れた。第4戦で先発登板し、6回、無失点、10三振。そして打者としては3本塁打を放ち、そのうち1本はドジャースタジアムの右中間スタンド上段を越える特大弾だった。

ドジャースは5-1で快勝し、2年連続でナ・リーグを制覇した。

1シーズンはおろか、1試合、ましてやリーグ優勝決定戦で「10奪三振」と「3本塁打」を両方達成した選手は、MLB史上誰もいない。

さらに大谷は、ワールドシリーズ第3戦のブルージェイズ戦で9度の出塁、4本の長打を記録し、数々の新記録を樹立・更新した。だが、このNLCSで見せた投打一体の支配力は前例がなく、今後再び目にすることができるかどうかも分からない。

「おそらく史上最高のポストシーズンでのパフォーマンスだった。これまで数え切れないほどの試合を見てきたが、彼が“地球上で最も偉大な選手”と呼ばれる理由が、今夜の試合にはすべて詰まっていた」とデーブ・ロバーツ監督は語った。

ブルージェイズ vs ドジャース(ワールドシリーズ):2つのアウトが導いた2連覇

なんというワールドシリーズだっただろうか。

ブルージェイズが第1戦で下馬評を覆す大勝を収めると、第2戦では山本由伸が完投勝利を挙げてドジャースが反撃。第3戦ではドジャースが本拠地で延長18回の死闘を制した。

勢いが完全にロサンゼルスに傾いたかに見えたが、トロントが敵地で連勝して再び流れを取り戻す。しかし、ブルージェイズが王手をかけた第6戦では、九回にフェンス下部に打球が挟まるという劇的なプレーの末、ドジャースが辛勝。続く第7戦では延長11回に及ぶ激闘を制して、ドジャースが見事連覇を果たした

九回2死からミゲル・ロハスが放った同点ソロが、この第7戦最大のターニングポイントだと思う人も多いだろう。あるいは、延長11回にウィル・スミスが放った勝ち越し弾こそが決定打だったと感じるかもしれない。

しかし、この接戦に次ぐ接戦のシリーズを最も象徴するのは、最後のプレーだった。

11回1死一、三塁で打者はアレハンドロ・カーク。三塁にはブルージェイズの象徴ブラディミール・ゲレーロJr.がいた。しかし、中0日登板の山本由伸がカークをショートゴロに仕留めると、ムーキー・ベッツが二塁を踏んで一塁へ送球し、ゲームセットとなった。

「正直言って、誰にもわからないだろうけど、あの瞬間めちゃくちゃ緊張していたんだ。あんな場面は初めてだった。山本が投げる瞬間、自分に言い聞かせたんだ『冷静に、動け、プレーを決めろ。冷静に、冷静に、冷静に』ってね」とベッツは語った。

この偉大なワールドシリーズ、そして偉大なポストシーズンが、最後の瞬間まで何が起こるかわからないものであったことを物語る象徴的な結末だった。